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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

A Scandal in Bohemia ボヘミアの醜聞 11

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
親愛なるシャーロック・ホームズさま---実に見事なお手際でございます。
すっかり騙されてしまいました。
火事の叫びがございますまで、ゆめゆめ疑いもしませんでした。
うかつにも我が心の内をさらけだしたことにはっとして、考えてみました。
数ヶ月ほど前、警告されたことがございました。
王が代理人をお立てになるなら、きっと貴方でございましょう、と。
その方は住所まで教えてくださいました。
それですのに、貴方に知りたいこと全てを見破られてしまいました。
疑いを持ち始めた後でさえ、あの親切な老牧師さまを悪く思うのは苦しゅうございました。
ですが、ご存じのように私も女優として修練を積んでおります。
男装のごときは、訳ないことでございます。
折に触れては、その身自由さを利用しておりました。
ジョン、わたくしの御者でございますが、見張りを申しつけまして、わたくしは、散歩服と呼んでいる服に身を包み、下へゆきますと、貴方は丁度お帰りになるところでした。
 そして、お宅の戸口まで貴方をつけてゆきまして、わたくしはあの名高いシャーロック・ホームズさまの関心の的でございますことを確信いたしました。
はしたのうございますが、おやすみ申し上げ、そのまま夫の顔を見に法学院へ参ったのです。
 わたくしども二人は、かくのごとき畏怖すべき方を敵に回しては、高飛びしてしまいますのが良策と考えました。ですので、明日ご来宅なさる際には、もぬけの殻でございましょう。
写真につきましては、ご安心を、と依頼人にお伝えくださいませ。
わたくしは現在、もっと良き人を愛し愛されております。
陛下は、昔つれない仕打ちあそばした女の妨害などございませんから、御意のままになさいませ。
写真は護身のために取っておきます。今後どのようなことがあってもいいよう、ただお守りとして手元に置くのみでございます。
陛下がご所望ならばとこの写真を一枚残していきます。シャーロック・ホームズさまに心から。
かしこ
アイリーン・ノートン 旧姓アドラー
「なんたる女――まさに、なんたる女だ!」と我々三人が親書を読み終えたとき、ボヘミア王が叫んだ。
「言った通り、怜悧決然たる女であろう? 
きっと王妃の誉れとなったであろうに。
惜しむらくは、家格が余には不相応であったことか。」
「僕が拝見しましても、この女性、なるほど陛下とはたいへん格が違うようです。」とホームズは冷ややかに言う。
「遺憾ながら、陛下のご依頼を上首尾な結果に終わらせることが出来ませんでした。」
「その逆であるぞ、貴公。」と王は感嘆する。「まことに上首尾である。
あの女の言葉に嘘偽りはない。
写真は火中にくべたも同然、今や安全である。」
「陛下にそう言っていただき光栄に存じます。」
「大儀であった。
礼をつかわすゆえ、何なりと言うがよかろう。この指輪なぞ……」
と王は指からヘビの形をした翠玉《エメラルド》の指輪を抜き取り、自らの手のひらに載せた。
「陛下は僕にとってもっと価値のある物をお持ちです。」とホームズ。
「何であるか申せ。」
「この写真です!」
 王はホームズを驚きの眼で見詰める。
「イレーナの写真とな!」と王は声を上げる。
「よかろう。望むのであれば。」
「ありがたく存じます、陛下。
しからば、もはやこの件は解決いたしました。
ごきげんよう、と謹んで申し上げます。」
とホームズはお辞儀し、王の差し出した手に見向きもせず、きびすを返し、私とともに下宿へ引き上げたのだった。
 以上がボヘミア王室を脅かした一大醜聞であり、ホームズの深謀が一女性の機知にうち砕かれた事件の顛末である。
以前は女性の浅知恵と冷やかしていたホームズも、最近は一言もない。
そしてアイリーン・アドラーに触れたり、写真を引き合いに出したりする際には、ホームズは常に『かの女』という敬称を使うのである。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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