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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

A Scandal in Bohemia ボヘミアの醜聞 4

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「正気の沙汰ではなかったろう。」
「ご自身をおとしめることになりかねません。」
「当時、余はほんの皇太子であった。若気の至りなのだ。今は三十になったが。」
「奪還せねばなりません。」
「手を尽くしたが、失敗に終わった。」
「陛下、お金で買い戻されるべきではありませんか。」
「頑として売るまい。」
「盗まれては。」
人を雇い、押し込んで家捜しをさせたのが二度。
旅行中、荷物から目を離させようとしたのが一度。
道で待ち伏せをしたのが二度だ。
いずれも成果はあげられなかった。」
「手がかりは?」
「まったくない。」
 ホームズは笑みをこぼし、「なんとも愛くるしい事件でございます。」
「余には深刻な問題であるぞ。」と王は非難がましく言い返した。
「そうでしょうとも。ところでその人物は写真を使ってどうするつもりなのですか?」
「余を破滅させるのだ。」
「して、どのように?」
「余は近々婚姻を予定しておる。」
「そのようにうかがっております。」
「相手はクローティールド・ロトマン・フォン・ザクセン=マイニンゲン、スカンディナヴィア王国の第二皇女である。
かの王室の家憲が厳格なことは其方も存じておろう。
王女自身の性格もまた、繊細そのものであるのだ。
余の品行にいささかの影あらば、事は終局へと進んでいくだろう。」
「するとイレーナ・アードラーは。」
「写真を先方に送りつけると脅迫をな。あの女ならやりかねん。
そのことは余がよく存じておる。知らぬであろうが、鉄の心を持つ女なのだ。
外見こそは美しい女性であるが、内に秘めたる心たるや、不屈の男であるぞ。
余が別の女と結婚するくらいなら、いかなる手段にでも訴え出るであろう……いかなる、な。」
「写真はまだ手元にあると確信しておられますね。」
「いかにも。」
「なにゆえですか?」
「婚姻が公式発表になる日に送ると言いおったからな。
発表は次の月曜に予定されておる。」
「あぁ、では三日の猶予がございます。」とホームズはあくびをする。
「好都合です。今、調べておきたい大事なことが一つ二つございますので。
無論、陛下はロンドンに当座、ご逗留なさいますね?」
「そのつもりだ。ランガム・ホテルにフォン・クラーム伯爵名義で滞在しておる。」
「では、進行状況を電報でお知らせしましょう。」
「そうしていただこう。気が気でないのでな。」
「それから、報酬の方は?」
「白紙をお渡しする。」
「では全権を?」
「写真が戻るのならば、余は王国の一領土を与えることもいとわぬ。」
「当面の費用は?」
 王はセーム革の袋をマントの内から取りだし、卓上に置いた。
「ここに金貨で三〇〇ポンド、紙幣で七〇〇ポンドある。」
 ホームズはメモ帳から一枚、領収の旨を走り書き、王に手渡した。
「セント・ジョンズ・ウッド、サーペンタイン並木道のブライオニ荘だ。」
 ホームズは書き留めると、「もう一つ、質問がございます。
写真はキャビネ判ですか?」
「そうだが。」
「しからば、おやすみなさいませ、陛下。じき、良い知らせをお届けすることを約束致します。
それからワトソン、君もおやすみ。」王のブルーム型馬車が通りを去っていったあと、ホームズはこう付け加えた。
「明日の午後三時にご訪問いただけると、これ幸い。君とこのささやかな事件について語りたく存じます。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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