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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

A Study In Scarlet 緋色の研究 第一部 第二章 4

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「説明してみれば、簡単だな。」と私は微笑んだ。
「君はエドガー・アラン・ポオのデュパンを彷彿とさせるね。
物語の外にこんな人物がいるとは、思ってもみなかった。」
 シャーロック・ホームズは立ち上がって、パイプに火をつけた。
「君は褒めるつもりで僕をデュパンになぞらえたのだろうが、
まあ僕にしてみれば、デュパンなぞひどく劣等な男だ。
考え込む友人の前で突然、それも一五分も沈黙したあとで、もっともらしい意見を述べる。あのやり口が実に露骨で表層的。
それなりに分析力に恵まれてはいたには違いなかろうが、ポオが思っていたほど非凡な人間とはお世辞にも言い難い。」
「ガボリオの作品は読んだことあるかい? 
ルコックなら君の探偵像に合致するだろう?」
 シャーロック・ホームズは冷ややかに鼻であしらった。
「ルコックは哀れなへっぽこだ。」と声は怒り調子に、「褒められたことは、その根気くらいか。
あの本を読むと、本当に気分が悪くなる。
問題は、正体不明の囚人の身元確認一点。
僕なら二十四時間以内にやってみせる。ルコックは六ヶ月あたりはかかったな。
いい教材にはなろう、探偵の避けるべきことがわかる。」
 自分の褒めた二人の人物を、こうも上から目線で扱われては、私もそれなりに腹が立つ。
私は窓際へ歩み寄り、賑やかな通りを見下ろした。
「この男、なるほど賢いかもしれんが、すこぶる自負心が強すぎる。」と私は思った。
「近頃は犯罪も悪人もさっぱりだ。」と同居人は不平たらたらで、
名遂げるだけの才能が自分にあることは、重々承知している。
過去現在に及んで、かくも研究に研究を重ね、なおかつ犯罪捜査の天分を有している人間が、僕以外にいるものか。
それがどうだ、
捜査に値する犯罪そのものがない。あってもへっぽこ悪事、動機が見え透いているから、スコットランド・ヤードの刑事どもでも見破れてしまう始末だ。」
 その高慢ちきな口調に、私のいらだちは収まりそうにないので、
話題を変えるのが賢明だと判断した。
「あの男、何を捜してるのだろう。」
と私が指差した先には、素朴な服装をした体格の良い男がいた。通りの向かい側をうろつき、せわしなく番地を確かめている。
大きな青色の封筒を手にし、見たところ手紙の配達人らしかった。
「あの海兵隊の退役軍曹のことか?」とシャーロック・ホームズは言う。
 私が心の中で、「このほら吹き男爵が! 確かめられないからと――」
 と思うか思うまいかのうちに、目線の先にあった男が我が下宿の番地を見つけて、道を急ぎ足で横切ってきた。
強く叩く戸の音、階下から太い声、階段を上る重い足取りが次々に聞こえた。
「シャーロック・ホームズさん宛です。」と言ってこの部屋に踏み入り、我が友人に手紙を渡した。
 これ同居人の鼻をへし折る機会なり。
こうなることも考えず、当て推量したのだろう。
私はできるだけ平静を装って、「ちょいと君、職業を聞いてもいいかな?」
「便利屋であります。制服は繕いに出していまして。」と野太い声で答えた。
「で、昔は?」と尋ね、同居人の方に少し意地悪い目を向ける。
「軍曹であります、海兵隊軽装歩兵でありました。他には? しからば失敬。」
 男は踵を付き合わせ、敬礼をし、去っていった。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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