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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

A Study In Scarlet 緋色の研究 第一部 第五章 2

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「更々。僕の読みが正しければ、いや、確たる理由があるな。この男は指輪を失うくらいなら、いかな危険も冒すだろう。
僕の考えで行くと、犯人はドレッバーの死体の間近でかがんだ際に落としたのだが、その時には気づかなかった。
家を離れてからなくしたとわかり、急いで戻ったものの、犯人が蝋燭を点けたままにするという失敗を犯したため、既に警察が来てしまっていたのだ。
そこで酔いどれを装い、なぜ門前にいるのかという疑惑を弱めようとしたというわけだ。
さあ、その男の立場になってみたまえ。
この件を考えつくせば、家を出た後、路上で指輪を落としたのではないかと思えて来よう。
そこでどうするか。
夕刊を熱心に調べるだろう。拾得物欄に指輪はないか、と。
もちろん、男の目はあの記事を捕らえる。
狂喜。なにゆえ罠が待ち受けると? 
犯人とて、指輪と殺人が結びつくなど思いもしない。
来る。来たくなる。
一時間以内に、あの男をお目にかかれる寸法だ。」
「来たあとは?」
「ああ、あとのことは僕に処置を任せてもらって構わない。武器は持ってるか?」
「軍用の古いリヴォルヴァと弾が少し。」
「手入れをして、弾を込めておいた方がよかろう。
男が自暴自棄になるやも。不意をつくつもりだが、何事にも備えねば。」
 私は寝室へ行き、忠告に従った。
拳銃を手に戻ってくると、卓上は片づけられ、ホームズは趣味のヴァイオリンを一心に掻き鳴らしていた。
「筋が込み入ってきた。」と私が入るなり言ってくる。「アメリカへ打った電報の返事がここにある。
僕の読みは合っていたようだ。」
「して、それは――?」と熱心に訊いたのだが、
「弦を新しくした方がいいかもしれない。
拳銃は懐に。男が来たら、普通に話しかける。
最後は僕に任せてくれればいい。にらみつけて、男を怖がらせぬように。」
「八時ちょうどだ。」と私は腕時計をちらりと見た。
「うむ。おそらくもう現れるだろう。
扉をわずかに開けて、そう、それと鍵を内側から差しておくんだ。
ご苦労。これは昨日、露店で見つけためずらしい古書――『諸民族間の法』――低地地方のリエージュで一六四二年に出版されたラテン語の本だ。
チャールズの首がまだしっかりつながっていた頃、このやや茶褐色の背の本が印刷されたわけだ。」
「印刷屋の名は?」
「フィリップ・ド・クロイ、そういう名前だそうだ。
遊び紙に色あせたインクで『グリオルミ・ヒューテ蔵書』とある。ウィリアム・ホワイトとは何者だろうね。
察するに、一七世紀の実務弁護士といったところか。
筆跡に弁護士風のねじれが見られる。
どうもあの男が来たようだ。」
 と口にした瞬間、呼び鈴の音が聞こえた。
シャーロック・ホームズがゆっくりと立ち上がり、扉側にある椅子へと座り直す。
使用人が玄関へ出て行くのが聞こえ、戸の掛け金を外す音がした。
「ワトソン先生はこちらかえ?」はっきりしていたが、しわがれた声だった。
その返事はわからなかったが、ともあれ扉は閉められ、誰かが階段を上がり始めた。
足音はよたよたとしていてぎこちない。
それを耳にして同居人の顔に驚きの表情がよぎった。
何者かは廊下をのろのろと歩いてきて、弱々しく部屋の扉を叩いた。
「どうぞ。」と私は大声で言った。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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