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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

A Study In Scarlet 緋色の研究 第二部 第三章 2

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「だが、とうてい信じがたい話を聞いておってな――その娘が、ある異教徒と証印されているというではないか。
これは愚かな口から出た戯れ言であらねばならぬ。
聖ジョゼフ・スミス法典の第十三番目の掟は知っておろうな。『真の信仰を持つ処女は、すべて選ばれし民の中の者と結婚させよ。もし異教徒に嫁げば、女は嘆かわしい罪を犯すこととなる。』
これが掟ならば、そのようなことはありえぬことよな。聖なる信仰を奉じたうぬが、娘が掟を破るのを黙って見ているとは。」
 ジョン・フェリアは何も答えず、いらいらと鞭を手の中で遊ばせた。
「この一点に、うぬの全信仰が試されておる。これから言うことは、神聖四長老会で決まったことだ。
娘は若い。我々は灰色の髪を持った者などとは結婚させぬが、娘の選ぶ権利をすべて奪うわけではない。
我々長老会にはたくさんの牝牛がいるが、我々の息子にも分け与えるべきである。
スタンガスンに一人息子がおる、ドレッバーにも一人息子がおる、そのどちらかの家に快くうぬの娘を歓迎してもらおう。
娘にこの二人から選ばせる。
どちらも若く裕福だ、真の信仰も持っておる。
これ以上何を言うことがある?」
 フェリアは眉根を寄せて、しばらく黙り込んだのち、口を開いた。
「我々に時間をお与えください。まだ娘は若いのです――結婚には早すぎます。」
「一ヶ月の間、選ばせてやろう。」と言って、ヤングは席を立った。
「その時が終われば、答えを出さねばならぬぞ。」
 ヤングは玄関から出るとき回れ右をして、赤い顔の中にひそむ目をぎらつかせながら、一喝した。
「思い知れ、ジョン・フェリア! 軽い気持ちで聖なる四人の命に反するくらいなら、うぬと娘がシエラブランコで白骨になって転がっていた方が、まだずっとよかろうぞ!」
 脅すような手つきをしてから、ヤングは元の方へ向き直り、去っていった。砂利だらけの道の上で一歩ずつ、じゃり、じゃりと音がするのが聞こえてくる。
 フェリアは肱を膝の上についたまま座っていた。娘にどうして切り出したものかと考えていたとき、柔らかな手がフェリアの手の上に重ねられた。見上げると、ルーシィがかたわらに立っていた。
ルーシィが顔を真っ青にしておびえているのを見て、一部始終を聞いていたことがはっきりとわかった。
「わざと聞いていたんじゃないの。
大きな声が、家の外まで……ねぇ、父さん、ねぇ、どうしたらいいの?」
「こわがることはない。」と娘を抱き寄せ、ごわごわした大きな手で、慈しむように娘の栗毛をなでた。
「二人で何とかして話をつけよう。
まだ、あの男が好きだという気持ちはなくなっていないんだろう?」
 ルーシィは答える代わりに、すすり泣きながら強く手を握りしめた。
「そうだ、もちろん好きだろう。わしもそうだろうと思っていた。
いい男だし、キリスト教徒だ。ここにいる人々よりもずっとキリスト教徒らしい。祈ったり、説教したりしているあいつらよりもずっとだ。
ある一団が、明日ネヴァダへ向かう。わしは何とかあの男に、わしらが窮地にいることを伝えてもらうつもりだ。
わしが見込んだとおりの男なら、たちまち戻ってくる。電報に負けんくらいの早さでな。」
 父の言い方に、ルーシィは泣きながら笑った。
「あの人さえ来れば、何かいい案を思いついてくれる。
でも、いちばん心配なのは父さんのことなの。
みんな言ってる、預言者に刃向かったりしたら、本当にひどい目に遭うんだって。」
「だが、まだ刃向かったわけじゃない――
その万一のときに備える時間はある、
まだまるまる一ヶ月もある。それが終わる頃に、ユタを歩いて出るのがいいだろう。」
「ユタを出るって!」
「まあ、そうなるだろう。」
「畑は?」
「お金に換えるだけ換えて、あとは残していこう。
実を言うと、ルーシィ、そう考えたのは何もこれが初めてじゃないんだ。
わしはどんな男にも屈したくはない、ここのやつらが、あのくそ預言者にひざまづくみたいにはな。
わしは自由の身に生まれたアメリカ人だ、何でも受け入れたさ。
だが、考えを変えるにはもう年をとりすぎた。
あいつがこの農業あたりを歩こうものなら、鹿弾をぶっ放して、反対の方向へ追い返せばいい。」
「ジェファースンが来るまで待つんだ。そうすれば、すぐに何とかなる。
いろいろあると思うが、ルーシィ、落ち着こう。涙も見せるな。そんなお前を見たら、やつが中に入ってこないとも限らん。
怖がることは何もない、危ないことなんて何もないんだ。」
 ジョン・フェリアは自信たっぷりに慰めたが、ルーシィにはわかった。父親はいつも以上に気を張りつめている。その夜、戸締まりを念入りにやっていたし、さびた古い散弾銃に弾を込めて、寝室の壁に立てかけたのが、いやでも目に入った。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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