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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Blue Carbuncle 青いガーネット 3

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「鵞鳥……ホームズさん! 鵞鳥が!」と息を切らす。
「ん? 鵞鳥が、何? 
生き返って台所の窓からパタパタと飛んでいったのか?」
ホームズはソファの上で身体をねじらせ、男の興奮した顔をよく見ようとした。
「見てください! 女房が餌袋から、こいつを!」
便利屋は手を差し出した。手のひらの真ん中には、燦然と輝く蒼色の石、豆よりも小さかろうという大きさだったが、その純度と輝きは、まるで手という暗い洞窟のなかで、冷たい静電気がきらめくかのようだった。
 シャーロック・ホームズは口笛を吹いて座り直すと、
「驚きだ、ピータソン!」と言った。「これこそまさしく埋〈臓〉金だ。
自分が何を持ってきたのか、わかるね?」
「ダイヤモンドですか? 宝石です、
ガラスが石膏みたいに切れるあれですね。」
「それ以上のものだ。
今、宝石といえばあれしかない。」
「まさかモーカー伯爵夫人の蒼炎石か!」私は思わず大声を上げた。
「ご名答。大きさといい、形といい、『タイムズ』にここ毎日出ている広告の通りだ。
世界にふたつとなく、その本当の価値は誰にもわからない。懸賞金の一〇〇〇ポンドも、その市場価値の二〇分の一にも及ばないだろう。」
「一〇〇〇ポンド! こりゃ、たまげた!」
便利屋は椅子にへたり込み、我々の顔を一人ずつ見据える。
「そう、懸賞金。だから気になってはいた。その裏には、心情面での深い事情がある。伯爵夫人が自分の財産の半分を出してまで、その宝石を取り戻したいと考えるほどの。」
「紛失か。私の記憶が確かなら、場所はホテル・コズモポリタン。」と私が口を挟む。
「左様、十二月二十二日、ちょうど五日前だ。
配管工のジョン・ホーナが訴えられた。夫人の宝石箱から件の宝石をかすめ取ったかどでだ。
不利な証拠の方が強かったため、この事件は巡回裁判に付された。
この中に、その報道記事があったはずだが。」
ホームズは新聞の山をかきまわしては、日付を素早く確かめていった。ようやくひとつを取り出すと、しわを伸ばしてから、ふたつに開き、次の記事を読み上げた。
ホテル・コズモポリタンで宝石盗難
――モーカー伯爵夫人の宝石箱から蒼炎石の名で知られる貴重な宝石が盗難された事件で、二十二日、配管工ジョン・ホーナ容疑者(二六)が逮捕された。
ホテルのジェイムズ・ライダー客室係長の証言では、事件当日、ホーナ容疑者をモーカー伯爵夫人の化粧室まで連れて行ったという。外れた二本目の火格子を修繕するためで、
しばらく容疑者と一緒にいたが、呼ばれたため途中で退室。
戻ったときには容疑者の姿はなく、衣装箪笥がこじ開けられており、モロッコ革の小箱が空のまま鏡台の上に放置されていた。伯爵夫人が普段から宝石を保管している箱だとは知らなかったものの、
客室係長はすぐ通報、容疑者は同日晩に逮捕された。宝石は容疑者の身体からも部屋からもまだ見つかっていない。
キャサリン・キューサック(伯爵夫人のメイド)は、窃盗に気づいた係長のうろたえた声が聞こえ、あわてて部屋に駆け込むと、室内は係長の証言通りの様子だった、と答えている。
B管区のブラッドストリート警部によると、容疑者は逮捕の際、強く抵抗し大声で無罪を主張したという。
容疑者は法的手続のあいだ、極度の興奮を見せ、決定を聞いたのち気絶、裁判所の外へ運び出された。
「ふん! 所詮、警察裁判所と言うべきか。」ホームズがやれやれと新聞を投げ捨てる。
「僕らの今取り組むべき問題は、どのような道を経て、物色された宝石箱という始点から、トテナム・コート通りの鵞鳥の餌袋という終点に至ったかだ。
ほら、ワトソン、僕らのささやかな演繹も、たちまち重要度が増し、そう無害でもなくなってきた。
宝石がここにある。この石の出所は鵞鳥、そして鵞鳥の持ち主はヘンリ・ベイカー氏。あのひどい帽子を持ち、僕が君を退屈させたまさに張本人たる人物だ。
さて、これから僕らはできるだけ慎重にせねばならぬ。この紳士を見つけ、このささやかな謎でどういう役回りを演じているのか確かめること。
そのために、まずもっとも簡単な手段をとろう。わかるね、夕刊紙すべてに広告を出す。
これで駄目なら、何か方法を考えよう。」
「文章は?」
「鉛筆とその紙の切れ端を頼む。
そうだね、グッジ通りの角で鵞鳥と黒のフェルト帽を拾得。
ヘンリ・ベイカー氏へ同等品を返却希望。今晩六時半にベイカー街221Bへ参上されたし。
 簡にして要だ。」
「なるほど。さて読むかな?」
「ああ、間違いなく新聞に目をこらしている。貧乏人にとって、この損失は大きかった。
誤って窓を割ってしまったときも、ピータソンが近づいてきたときも、相当おびえきっていた。それはつまり、逃げることしか頭になかったということだ。だがそのあと、とっさに鳥を落としてしまったことをひどく悔やんでいるに相違ない。
それに名前を入れておけば間違いない。知り合いの誰かが本人に教えてくれるだろう。
さあ、ピータソン、広告代理店へ急いで、夕刊にこいつを入れてもらうんだ。」
「どの新聞です?」
「そう、グローブ、スター、ペル・メル、セント・ジェームジズ、イヴニング・ニューズ・スタンダード、エコー、あとは君の思いつく限りの新聞へ。」
「承知しました。あと、この宝石は?」
「そうだね、預かっておこう。ありがとう。
あとひとつ、ピーターソン、ちょっと帰り道で鵞鳥を買って、ここへ置きにきてくれないか。その紳士へ返す鵞鳥が要る。元のは今頃、君の家のごちそうになっているから。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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