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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Dancing Men 踊る人形 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 その少年が出発すると、次にシャーロック・ホームズは召使いたちに指示を与えた。
もしヒルトン・キュービット夫人を訪ねて来る者があっても、決してその容態を知らせてはならないこと、そしてその者を早速応接間へ通すこと
――こういったことを熱心に言い含めた。
それが終わると、もう仕事も手を離れたから、いずれまた何かが出てくるまで安楽に過ごそう、と言いながら、我々を応接間の方へ導いた。
老医師は往診に出たので、残ったのは警部と私だけだった。
「では、これから一時間ばかり、楽しく有意義に過ごすお手伝いを致しましょう。」ホームズはこう言って、机に椅子を引き寄せ、踊る人形のおふざけを記録した紙切れを、最初から最後まですべてその前に広げた。
「ワトソン、友人である君に、ぼくはつぐなわなければならぬ。持ち前の好奇心を満足させずに待たせてしまった。
そして警部、あなたにとって、この事件の全容は、刑事としてたいへん知りたいとお感じになっているはずです。
ですからまずは、その物珍しい背景からお話ししましょう。その関係で、事件前にヒルトン・キュービット氏がベイカー街の私のところへご相談に来られたのです。」
そしてホームズは、ここまで書いたような事実を手短に説明した。
「私の目の前に、このような奇妙なものがあります。誰だって笑います。これが、あの恐ろしい悲劇の前触れだとわからなければ。
私はそれなりに暗号の類型を熟知しておりまして、その主題でつまらない小論を書いたこともあり、その中で百六十種の暗号法を分析してはいたのですが、正直、今回のものは私も初めて見ました。
この方法を考えた連中の意図としては、この絵が何かを伝えるということは隠して、単に子どもが気まぐれに描いたものだと思わせたいというのがあるのでしょう。
 しかし、いったん記号が文字の代用とわかれば、あとは暗号のどんな類型にも通用する規則を当てはめるだけで、容易に解くことが可能です。
最初に見せられた伝言は短すぎたので、ただこうとしか言い切れませんでした。つまり、両手を挙げたこの人形は、アルファベットのEであると。
ご存じの通り、Eというのは英語のアルファベットで最もよく使われ、その頻度は、どんな短文にもたくさん見つかるほどです。
最初の伝言にある十五の文字のうち、同じものが四つ、さすればこれをEとするのが合理的です。
また、見ると、ある場合には旗を持つ記号があり、ある場合には持っていない。すると考えられるのは、この旗の現れ方を考慮すると、旗には文を単語に区切る役割があるのかもしれぬ。
私はこの仮説を受け入れ、ひとまずEを表すのは、両手を挙げた人形であると考えました。
 しかしここからが本当に難しいところです。
英語の語順では、Eのあとに決まってこれが来るというものがない。ある印刷用紙一枚の文章でとった平均順位も、短い文の中では逆転するかもしれない。
およそのことを言えば、T、A、O、I、N、S、H、R、D、Lというのが出やすい順だ。だが、T、A、O、Iなどはたいへん拮抗している。ここで組み合わせを考えて意味を見いだそうとしてはきりがない。
そこで私は新たなデータを待った。
ヒルトン・キュービット氏に会った二回目、二つの短文と、ひとつの伝言をいただいたが、後者には旗がないので、単語だと踏んだ。
このような並びです。
さて、単語としてはこれまでの仮定から、Eが二番目と四番目にある、五文字の言葉だとわかります。
切り離すという意味のSEVERか、梃子のLEVER、もしくは打ち消しのNEVER。
異論ないかと思いますが、最後のネヴァーが何かの返事として、もっともありそうですし、状況から考えて、あのご婦人が描いた返事かもしれません。
これらがすべて正しいとすれば、残り三つの記号は、N、V、Rということになる。
これでもまだ難しいところが残っているのだが、いくつかの文字についてよいことを思いついた。
つまりこうだ、もし私の読み通り、これがあのご婦人と昔親密にしていた者からのメッセージだとすれば、この両端にEがあり、中に三文字ある組み合わせは、ELSIE、『エルシィ』という名前をまさに指しているのかもしれぬ。
よく調べてみれば、この組み合わせが三度、伝言の末尾に現れている。
とすれば、これはエルシィ宛の文章に相違ない。
こうしてL、S、Iがわかった。
しかし何を伝えようとしているのか?
 たった四文字だけが、エルシィという名の前に描かれていて、末尾はE。
きっとCOME、『来い』という意味に相違ない。
他にも末尾がEの四文字を考えたが、この状況に見合うものは他にない。
そうしてさらにC、O、Mがものになったので、再び最初の伝言に挑んでみた。単語に区切って、未知の文字を点に置き換えてみると、
次のようなものになる。
 ・M ・ERE ・・E SL・NE・
 すると、最初の文字はAしかありえない。この短い文章の中で三度も出るのだから。これはたいへん有益な発見だ。さらに二つ目の言葉には、明らかにHがはいる。
そうするとこうなる。
 AM HERE A・E SLANE・
 つまり、この穴にわかっている名をうめると、
 AM HERE ABE SLANEY
 『エイブ・スレイニ参上』という意味だ。かなりの文字がわかったので、相当の確信を持って、第二の文章に進もう。こんなふうになる。
 A・ ELRI・ES
 ここで、TとGをうめると、何とか意味が通じる。『アット・エルリッジ』おそらくこの名は書き手のいる家の名か、宿の名であろう。」
 マーティン警部と私は、このわかりやすく完璧な説明を、のめり込まんばかりに聞き入っていた。我が友は、この難事件を完全に見とおせるだけの結論を、かくも見せつけたのだ。
「先生、それからどうなされたのですか?」と警部が訊ねる。
「どう推理しても、このエイブ・スレイニなる人物はアメリカ人です。名前の綴りもアメリカ式であるし、そもそもこの事件の発端はアメリカから来た手紙でした。
またどう見ても、この件には何か隠れた犯罪があると思うのです。
ご婦人が過去のことをほのめかしたり、旦那への告白を拒んだり、この二点はその方を向いています。
そこで私は友人のウィルスン・ハーグリーヴへ外電を打ちました。彼はニューヨーク警視庁の人間で、一度ならずロンドンの事件の知識を教えてやったのです。
エイブ・スレイニという名前を知っているかと聞いたところ、
こう返事が来ました。『シカゴ一危険な悪党』。
この答えを得たちょうどその夜、ヒルトン・キュービットがスレイニからの最後の伝言を送ってきました。
わかっている文字を当てはめると、こうなります。
 ELSIE ・RE・ARE TO MEET THY GO・
 ここにPとDを加えて、伝言は完成です。『エルシィ、汝の神に会う覚悟をしろ』。悪党が説得から脅しへ進んだことがわかり、私はシカゴの悪党どものやり方を知っているだけに、すぐにでも言葉を実行に移すことがわかりました。
私は友人であり相棒でもあるワトソン博士とともにノーフォークへ駆けつけたのですが、悲しいことに、着いたのは最悪の事件が起こったあとでした。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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