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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Dancing Men 踊る人形 8

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「あなたと事件を一緒に取り組めて光栄です。」警部は心から言った。
「ただ失礼かもしれませんが、正直申しあげて、
あなたは私立探偵ですからよいかもしれませんが、私には組織の職務というものがあります。
そのエルリッジにいるエイブ・スレイニなる男が本当に下手人だとして、私がこうしているうちに逃げられでもしたら、私としてはもう大弱りなのですが。」
「ご心配なく。
逃げることなど致しません。」
「なぜおわかりで?」
「逃げることはすなわち、罪の自白です。」
「では捕まえに行きましょう。」
「じき、ここへ来ます。」
「えっ、なぜわざわざ?」
「手紙でそう頼んだからです。」
「そんなバカな、ホームズさん! 来いと言って来るやつがありますか。
そんなことをしたら、かえって疑って逃げてしまうじゃありませんか。」
「僕も、あの手紙の作り方は知っているつもりです。」とシャーロック・ホームズは言った。
「事実、間違いではなさそうです、その紳士がご自身で邸内へおいでですから。」
一人の男が玄関へ続く道を、大股に歩いてくる。
背が高く、顔は浅黒く端正。灰色のフラノのスーツに身を包み、パナマ帽という出で立ち。もじゃもじゃのあ ごひげに、大きく前にとんがった鼻。籐の杖を振り回しながら男がやってくる。
我が物顔で小道をふんぞり歩き、堂々と呼び鈴を響かせるのであった。
「どうやら諸君、」ホームズが静かに言う。「我々はドアの影に潜んだ方が賢明のようだ。
あのような男が相手では、用心に越したことはない。
手錠も必要です、警部。
話すのは、僕にお任せ願いましょう。」
一分のあいだ、我々は息を殺して待った。これもまた、忘れることの出来ないひとときだ。
やがて扉が開き、その男が中に入る。
と思ううちに、ホームズが拳 銃を男の頭に狙いつけ、マーティンが素早く手錠をはめた。
あっという間の出来事だったので、男も手も足も出せず、しばらくしてようやく捕まったことに気づく有様だった。
その男は我々を、次から次と、その黒く鋭い目でにらみつけた。
そして、苦々しく笑い声を上げる。
「なるほど、あんた方にしてやられたわ。
厄介なことにでくわしちまったらしい。
だが俺はヒルトン・キュービット夫人の手紙に応じてここへ来たんだぜ。
まさか、あいつも一枚噛んでるってことはないよな?
この罠を仕掛けるのに協力なんてしてないよな?」
「ヒルトン・キュービット夫人は深い傷を負って、今危篤だ。」
その男はしわがれ声で、家中に響き渡るような、悲しみの叫びを上げた。
「ふざけやがって!」男は吠えた。
「おれは男をやったんだ、あいつじゃない。
どうして愛しいエルシィをやるもんか!
 ちょっとはおどかしたかもしれないが ――神様もお許しのはずだ!――おれは、あいつの綺麗な髪一本すら触っちゃいねえ。
取り消せ――さあ!
 怪我なんかしちゃいねえと!」
「ご婦人は負傷した状態で見つかった、死んだ夫のそばで。」
男は深いうめき声を上げながら、長椅子にへたり込み、手錠のかかった両手で顔を覆った。
五分ほど黙り込んでいたが、
また顔を起こして、今度は観念して静かに語り出した。
「隠すことなんか、何ひとつないんだ。」男は言葉を続ける。
「俺が男を撃ったのなら、あの男も俺に撃ったんだ。殺しの罪じゃあない。
あんた方が、俺があいつを傷つけたっていうんなら、俺とあいつのことをよく知らねえってことだ。
いいか、この世でどんな男がどんな女を愛するよりも、俺はあいつを愛していたんだ。
俺にはあいつをもらう権利がある。
何年か前、あいつは俺に誓ったんだ。
横入りしやがったこのイギリス人こそ何様のつもりだ!
 いいか、俺にはあいつへ の優先権がある、おれはそれを主張しただけだ。」
「ご婦人が君の手から逃げ出したのは、その君の本性に気づいたからだ。」とホームズの厳しい声。
「ご婦人は君を避けるためアメリカを飛び出し、立派な英国紳士と結婚した。
君はご婦人につきまとい追いかけ、彼女の人生を苦しみに変えた。その理由は、ご婦人に敬愛する夫を捨てさせるため。さらにその理由は、おのれと逃避行させるため。憎しみ嫌う男と一緒に。
その結果、君はひとりの気高い男に死をもたらし、その妻を自殺に追いやった。
以上がこの一件についての君の行状だ、エイブ・スレイニ。その報いは、法から受けたまえ。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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