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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Dying Detective 瀕死の探偵 9

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 私は喜びと驚きとで危うく声を立てるところだった。
普段通りの声でしゃべっている――多少弱々しいかもしれないが、聞き慣れた声だ。
しばらく時が止まり、きっとカルヴァトン・スミスは驚きのあまり、相手を見下ろしているのだろう。
「ど、う、い、う、こ、と、だ?」
とうとう、うわずったしゃがれ声が聞こえてくる。
「素晴らしい演技をする一番の方法とは、かくあらん。」とホームズが言った。
「誓って言うが、この三日間は飲まず食わずで、先ほど一杯の水を君にもらってようやくだった。
だが煙草はもう限界だ。
ああ、このあたりに煙草がいくつか。」マッチをする音がした。
「これはすこぶるいい。
ほら! ほら! これは友人の足音かな?」
 廊下に足音がして戸が開き、そしてモートン警部が現れる。
「すべて計画通り。この男は君に任せる。」とホームズが言った。
 警部は型どおりの警告を与える。
「あなたをヴィクタ・サヴィッジ殺害の容疑で逮捕する。」と、とどめを刺した。
「付け加えてもいい、シャーロック・ホームズ殺害未遂、と。」ホームズはほくそ笑む。
「警部、カルヴァトン・スミスさんは手間を省いて、ご自分で明かりの合図をなさってくれたのです。
ついでながら、この犯人の上着の右に小箱が入っています。出した方がよいかと。
ありがとう。僕なら慎重に扱います。
ここに置きたまえ。裁判で有力な証拠になるでしょう。」
 そのとき突然、暴れて取っ組み合いになり、ガチャガチャという音と、ぎゃあという叫びが聞こえた。
「自分が痛い目を見るだけだぞ。」と警部。
「おとなしくしてろ。」そして手錠のはまるカチャリという音。
「うまくはめたネ!」いがむような声だ。
「キミこそ被告席に引きずり出されるべきだ。ホームズ、僕よりもネ。
そっちが来て手当てしてくれと言った。ボクは気の毒で来たんだ。
一芝居打つつもりか。変な言いがかりを本当にしようと何やらでっち上げたに決まってる。
勝手にでたらめでも言え、ホームズ。どっちが正しいかなんてわかりゃ、し、な、い。」
「しまった!」ホームズが叫んだ。
「存在をすっかり忘れていた。
ワトソンくん、千回ほど謝らねば。
君のことをないことにしたとはね! 
紹介の必要もないか、カルヴァトン・スミスくんとは夕方、少し前に会ったそうなので。
表に辻馬車はある? 
着替えたあとで行く。署でもお役に立てるかと。」
「至福の時だ。」ホームズは一杯のクラレットと何枚かのビスケットで英気を養いつつ、身支度をする。
「しかし知っているように、僕の生活は不規則だから、こんな芸当もたいていの人よりは大したことない。
大事なのは、ハドソンさんに僕の様を本当らしく思わせることだった。そうすれば君のもとへ伝えに行き、今度は君のあいつのところへ。
気を悪くしないでくれ、ワトソン? 
自分でもわかると思うが、君は演技なんてからきしで、うっかりこの秘密を教えると、スミスにも僕自身が危篤だと思わせることも無理になる。そこがこの計画全体の要なのだから。
あの執念深い性格からして、自分の仕掛けを見届けに来ることは、間違いないと確信していた。」
「だがその面は、ホームズ――死人じゃないか?」
「まる三日の断食で美しい顔はないよ、ワトソン。
大半は海綿でほとんど元通りだ。
額にはワセリン、目にはベラドンナ、頬骨には紅、唇の周りには蜜蝋を薄くつけて乾かす。
これで思った通りの効果が生み出せる。仮病という主題で、僕もときどき小論文でも書いてみたくなる。
時折挟んだ銀貨や牡蠣といった脱線話は、譫言と思わせるのには覿面だ。」
「しかし、なぜ近寄らせてくれなかったのだ、本当は感染しないんだろう?」
「聞くまでもないことだ、ワトソンくん。
僕が君の医者としての腕を信用してないとでも? 
いくら何でも、君のめざとい診察にかかれば、死にかけだなんて思ってもらえそうにない。弱っているとはいえ、脈も体温も正常なのだ。
四ヤードはないと騙せない。
失敗したら誰がスミスを罠へ追い込む? 
ああ、ワトソン、その箱には手も触れていない。見ればわかると思うが、開けると横から毒蛇の牙よろしく発条が強く飛び出す。
これと似た仕掛けで哀れサヴィッジは、あの怪物との財産争いのために死に追いやられた。
そもそも僕宛の郵便物はご存じの通り様々だから、届くものはどんな荷物でも多少警戒している。
とはいえ、思った通りだ。策略にはまったと見せかければ、油断して自白させらせる。
一芝居、真の芸術家のなせる技をもって、打って差し上げた。
ありがとう、ワトソン、まだ外套を自分では着られなくて。
警察署の用事が済んだあとでも間に合いそうだから、シンプソンズで栄養のあるものでもどうかな?」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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