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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Speckled Band まだらのひも 5

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「今の話をどう思うね、ワトソン?」シャーロック・ホームズが、椅子にもたれかかりながら訊ねる。
「ずいぶん暗く、悲惨な話だと思う。」
「暗く、悲惨……そうだね。」
「あのご婦人の言ったように、床にも壁にも異常がなく、戸も窓も煙突も通れないとすれば、その姉なる人が不可解な死を遂げたときに、たったひとりだったことは間違いないということになる。」
「では、真夜中の口笛は、ご婦人が死に際にもたらした不思議な言葉は、どうなる?」
「見当も付かんよ。」
「考え合わせてみよう。夜の口笛のこと。老医師と親密なロマたちの存在。娘の結婚を邪魔すれば、その医者が得をするというはっきりした事実。死に際の『ひも』という言葉の謎。それから最期にヘレン・ストーナの聞いた金属音(これは鎧戸の棒が元のところに戻った音かもしれぬが)。この方向で、謎を解き明かせそうだとは考えられないだろうか。」
「だがロマたちが何をしたと。」
「何だろうね。」
「そんな説明、いくらでも穴がある。」
「ごもっとも。だからこそ今日ストーク・モランまで行く価値があると思う。
その穴が致命的なのかどうか、これで説明可能なのかどうか、確かめたい。
おや、何ごとかね?」
 突然、友人が声を張り上げたかと思うと、いきなり扉が勢いよく開いて、大男が入り口に立ちはだかった。
男の服装は、学者と農園主のそれが変に混ざった風であった。黒いトップ・ハットに長いフロックコート、長いゲートルという格好で、手で狩猟鞭を振り回している。
背が高く、帽子が入り口の鴨居すれすれで、肩幅もぎりぎりであった。
その大きな顔は皺だらけで日に焼けていて、鬼のような形相で我々をひとりひとりにらみつけ、怒りに燃えるくぼんだ眼、肉の薄い高い鼻などは、凶暴な猛禽のようであった。
「どっちがホームズだ?」
「私の名前です。が、まずは名乗るべきでは?」友人は静かに問い返した。
「わしはストーク・モランのグリムズビ・ロイロットだ。」
「どうも、先生。」とホームズはおだやかに切り返す。
「どうぞおかけください。」
「お断りだ。わしの義理の娘がさっきここへ来たな。
入るのを見たぞ。お前に何をしゃべりやがった?」
「今年の寒さはたちが悪いようで。」ホームズは言った。
「何をしゃべりおったと聞いとるのだ。」老医師は烈火のごとく怒った。
「ですが麦の方は出来がいいそうで。」と友人は少しも動じない。
「この、はぐらかしおって!」闖入者は一歩踏みだし、鞭をふるわす。
「このクソガキめが! 知っとるぞ。ホームズ、
貴様の職はお節介屋だとな!」
 友人はにこりと笑った。
「出しゃばり屋!」
 満面の笑みを浮かべる。
「このスコットランド・ヤードの子役人が!」
 ついにホームズはくすくすと笑い出した。
お帰りの際は戸締まりをよろしく。すきま風が寒いので。」
「用が済めばこっちから帰ってやる。
他人のことにあまり首をつっこむなよ。
ストーナの娘が来たのは知っとる、
つけてきたからな。わしを相手にすると後悔するぞ! 見ろ。」
老医師はつかつかと進むと、暖炉の火掻き棒をつかみ上げ、大きな手で折り曲げてみせた。
「せいぜいわしの手に気をつけるこったな。」老医師は吠えたあと、曲がった火掻き棒を暖炉の中へ放り込み、大手を振って部屋から出ていった。
「ずいぶん愛嬌のある人物だ。」と、ホームズは笑い出しながら、
「僕も身体は大きくないが、待っていれば決して彼より力は弱くないことを披露できたのだが。」
そういって、鉄の火掻き棒を取り上げると、ぐいと力を入れて元の通りまっすぐに伸ばした。
「御仁、僕と警視庁の役人を混同するとは、なんたる暴挙! 
だが今の出来事は、僕等の調査のいい薬味になる。あのお嬢さんが、あの獣に後をつけられたことで、困ったことにならねばよいのだが。
さて、ワトソン、朝食と行こう。そのあとで僕は博士会館へ行ってくる。事件に役立つ資料が何かあると思う。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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