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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Five Orange Pips 橙の種五粒 4

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「これがその封筒です。」と言葉を継ぐ。
「消印はロンドン――東地区。
なかには前に父へ寄越したのと同じくKKKの文字、それに『書類を日時計に置け』。」
「あなたのご対応は?」とホームズが訊いた。
「何も。」
「何も?」
「実を申しますと、」――と青年は顔をしなやかな白い手に埋うずめ――
「為す術がないのです。今の心境は、さながらうねる大蛇おろちに迫られた哀れな野兎。
抗えぬ冷酷な悪魔に掴みかかられては、どう構えても備えても防ぎきれないように思えまして。」
「ちっちっ。」とシャーロック・ホームズは舌を鳴らす。
「とにかく動くことだ、やられてしまう。
行動力だけが身を救う。
諦めてる暇はない。」
「警察には行きました。」
「うむ!」
「ですがにやにやしながら話を聞くだけで。
どうも警察はこう受け取ったみたいです。手紙はたちの悪い悪戯、親類の死は陪審の通りまったくの偶然、手紙と何らの関係もないはずだ、と。」
 ホームズは両の握り拳で空を引っ掻く。
「信じがたいほどに無能!」
「しかしひとりの警官をつけて館に常駐してくれてます。」
「今夜はその者と一緒に?」
「いいえ、あくまで館の張り込みですから。」
 再びホームズは空を切る。
「どうして僕のところに来た。」と大声。「いや何より、なぜすぐ僕のところへ来なかった。」
「存じ上げず。
ようやく今日になってプレンダギャスト少佐に悩みを打ち明けると、先生の元にと勧められて。」
「君がその手紙を手にしてちょうど二日。
もっと以前に動くべきだった。
話はこれで全部か。今僕らに話した分で――助けになりそうなことはもう?」
とジョン・オープンショウは上着の懐を掻き探り、褪せて青みがかった紙を一枚出して卓上に置いた。
「思い出したのですが、前に伯父が書類を燃やしたとき、灰のなかの焼け残しの切れ端が、この紙とまったく同じ色で。
この一枚は伯父の部屋の床にあったのを見つけたのですが、これは他の書類からひらり抜け落ちて、そのまま処分を免れたものかなと思えてきまして。
でもまあ種が出てくる以外役立つとも思えません。
個人的には手記の一部かと。
筆跡は間違いなく伯父のです。」
 ホームズは灯りを動かし、ふたりでその紙へかがみ込むと、どうやら一冊から裂いたらしく、端がぎざぎざになっていた。
頭の日付は「一八六九年三月」、その下に次の謎めいた覚書があった。
四日 ハドスン来る 主義変わらず
七日 マコーリー、パラモア、セントーガスティン在のジョン・スウェインに種を宛てる
九日 マコーリー片付く
一〇日 ジョン・スウェイン片付く
一二日 パラモアを訪ねる 上々
「かたじけない。」とホームズはその紙をたたみ、依頼人に返してやり、
「さてこうなっては、事は一刻を争う。
話してくれたことを論じている暇もない。ただちに帰って動くことだ。」
「いったいどう?」
「なすべきはただひとつ。それも即刻。
今見せたその紙をくだんの真鍮箱のなかに入れることだ。
ほかの書類はみな伯父が焼き、残っているのはこれ一枚きりだという言伝も箱に入れておくこと。
文章に信憑性をしっかり持たせるんだ。
済んだらその箱を指定通りの日時計に出しておくこと。
いいですか。」
「了解です。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Asatori Kato, Yu Okubo
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