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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Five Orange Pips 橙の種五粒 6

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
出発点はまず間違いないことから。つまりオープンショウ大佐がアメリカを捨てたには余程の大きな理由がある。
あの年輩の男は普通慣れたことを変えないから、楽しげなフロリダの風土からイングランドの田舎町の侘びしい生活に喜々として転じはしない。
イングランドへの隠居を切望するその心は、何かもしくは誰かを恐れている。ならば作業仮説として、その何か・誰かへの恐れが彼をアメリカから出させたと考えてもよい。
恐れるものが何なのか、それを演繹できる手だては、大佐および相続人らの受け取った不気味な紙の検討を措いて他にない。
あの封書の消印を挙げていくと?」
「第一がポンディシェリ、第二がダンディ、第三がロンドン。」
「東ロンドンだ。そこから何を演繹する?」
「どれも港だな。
すると差出人は船に乗っていた。」
「素晴らしい。これで糸口が掴めた。
こうなれば、船に乗っていたことはおそらく――いやまず間違いないだろう。
さて次の点を検討しよう。
ポンディシェリの場合には、脅してから殺すまでが七週、ダンディの場合がわずか三・四日、
この示すところは何か?」
「移動距離の差か。」
「しかし手紙にも同じく移動距離がある。」
「やあ、その点はうっかりした。」
「少なくとも単独複数いずれにせよ乗る船は帆前船という推測が立つ。
やつらは務めに取りかかる際、前もって例の奇怪な通知なり合図なりを常に送っているかに見える。
ほら、ダンディからの場合は知らせと実行との間が短い。
やつらポンディシェリから汽船で来たなら、到着は手紙とほぼ同時のはず。
ところが実際は七週の差ができた。
思うにこの七週こそ、手紙を運んできた郵便船と、差出人を乗せて来た帆前船との差なのだ。」
「もっともらしいな。」
「それどころか、ほぼ確かだ。
さてこうなると今回出てきた件がひどく緊急とわかるね。オープンショウ青年に用心を説いた理由も。
災いは毎回差出人の移動距離に応じた時間の経過後に降り懸かる。
ところが今回はロンドン、しからば遅れを見積もることはできない。」
「なんと!」と私は叫ぶ。
「なんだってこんなむごい仕打ちを!」
「つまりはオープンショウの持ってきた書類が帆前船のやつなり連中なりにとって生死に関わるほど大事なのだ。
ひとりでは到底、検死陪審を欺くほどの死を二度も演出できるものか。
五・六名は確かにいる上、知恵と思い切りのある連中だ。
例の書類だが、持ち主が誰であろうと執拗に得ようとする。
このことからほら、自然KKKは個人の頭文字でなくなり、結社の印となる。」
「しかし何の結社だ。」
「聞いたこと――」とシャーロック・ホームズは前かがみに声を潜めて、「聞いたことはないか、クー・クラックス・クランのことを。」
「初耳だ。」
 ホームズは書物を膝に載せて紙を繰り、
「ここだ。」と程なく告げる。
クー・クラックス・クラン 名は小銃の掛金をかける響きに似通わせて作れる言葉に由来する。
南北戦争後、南部諸州の元南軍兵士により結盟されたる恐怖の秘密結社にして、その支部すみやかに各地に広がり、テネシー、ルイジアナ、南北カロライナ、ジョージアおよびフロリダにわたる。
活動目的は政治にあり、殊に黒人有権者の脅迫、その主義に反対する者の殺害ないし国外追放にある。
その凶行に先だって通例、標的の人物へ奇抜な通知を送ることでよく知られる――樫葉の小枝、または甘瓜の種ないし橙の種など。
ひとたびこれを受けたる者は従前の意志を表立って捨てるか、その地を逃亡するかの二者択一なり。
刃向かう場合は死に見舞われるのが常で、その方法は奇怪かつ予期不可能なるが通例。
この結社の組織ははなはだ完全にして手口ははなはだ徹底なるゆえ、立ち向かい無事なりし者も凶行から下手人に辿れたることもほとんど記録されず。
アメリカ合衆国政府・南部社会上流階級の努力に関わらず、数年間盛んなりしも、
一八六九年この結社は突如瓦解に至る。ただしその以後も時として同種の組織起こることあり。
「お分かりかな。」とホームズは大冊を伏せ、「結社の突然の解体とオープンショウが書類を持ってアメリカから消えた年とが一致する。
もっともな因果だ。
オープンショウ一家が今も執念深い輩に追われているのも無理はない。
これでわかったろう、この一覧と日記は南部の顔役の幾人かを結びつけるもので、これが見つかるまで夜もおちおち眠れない連中が大勢いるのだ。」
「すると我々の見たあの切れ端は――」
「想像通りのものだ。
記憶が確かなら本文は『A、BおよびCに種を送る』――つまり結社からの通告だ。
それから続く記述、AとBとが片づいたというのは国外へ出たということ、最後のCを訪ねるとは、おそらくCの不幸な結果のこと。
そう、思うに博士ドクター、僕らはこの暗部にいくぶん光を当てつつあるのかもしれないし、そのあいだオープンショウ青年に残された手は、僕に教わったとおりにすることだけだ。
もう今夜はこれで話せることも出来事もないから、僕にいつものヴァイオリンでも渡してくれたまえ。せめて半時なりともこの悪天候を、我らが同胞のなおひどい世の常をふたりして忘れてみよう。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Asatori Kato, Yu Okubo
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