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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Five Orange Pips 橙の種五粒 8

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 日中私は本業が忙しく、ベイカー街に戻ったのは夜分遅くだった。
が、シャーロック・ホームズはまだ帰宅せず、
ようやく一〇時近くになって戻ってきたが、見えるは真っ青で疲れた顔色。
戸棚へ近寄り、パンを小さく千切りながら貪り食い、大量の水で流し込む。
「ぺこぺこか。」と私が言うと、
「飢え死に寸前、すっかり忘れていた。
朝から何も口にしていない。」
「何も?」
「一口も。考える暇もなかった。」
「で、うまく行ったのか。」
「まあ。」
「糸口は?」
「もう手の内にある。
近いうちオープンショウ青年の仇は取れる。
さあワトソン、今度はこちらからあの悪魔の印を送りつけよう。
名案だろう!」
「本気かね。」
 戸棚の橙を掴み上げると引き裂いて卓上に種を絞り出す。
そのなかから五粒だけつまんで、状袋に入れ、
折り返しの内側に「JO代理人SH」と記す。
そのあと封じて宛名のところに「ジョージア州サヴァナ 帆船ローン・スター号ジェームズ・カルフーン船長」。
「港入りした連中をこの手紙が待ち受ける。」とほくそ笑む友人。
「これで一晩は眠れぬ。
オープンショウが直面したように、逃れられぬ運命の迫ることを悟るはずだ。」
「カルフーン船長とは何者だ。」
「一味の親玉だ。
他にもいるが、まずはこいつだ。」
「どこから探り当てた。」
 友人が懐から一枚取り出した大きな紙には、日付や名前が一面にあった。
「一日仕事だ。」との説明。「ロイズ船名録や古新聞の山をあさって、八三年一月および二月に印度のポンディシェリに寄った全船舶のその後の航路を調べた。
その月その場所で報じられた船で噸数の大きなのが三六艘。
そのうちのひとつ、ローン・スター号がすぐさま僕の目を引いた。もっとも既にロンドン出港を報じられていたのだが、その名は合衆国のある州の別名だ。」
「テキサスだな。」
「それはどうだかわからないが、とにかくアメリカに縁のある船に違いないと知れた。」
「それから?」
「ダンディの記録を見ると、帆前船ローン・スター号が八五年一月にいたことがわかったため、疑いは確信に変わる。
そこで現在ロンドン港につながれてある船舶を探った。」
「すると?」
「ローン・スター号は先週着いている。
そこでアルバート船渠ドッグに駆けつけると、なんと船は今朝の引き潮で川へ入り、サヴァナへ帰航の途に着いたと。
グレイヴゼンドへ電報を打つと、先刻通過したとの知らせ、東寄りの風となれば、グッドウィン砂州も通過し今頃はワイト島の程近くに相違ない。」
「では、どうするというのだ。」
「ふん、もうこちらのものだ。
調べでは船員のうち、あやつともうふたりの仲間だけが生粋のアメリカ生まれ。
あとはフィン人とドイツ人だ。
なおその三人は昨晩みな下船していたことがわかっている。
その船の荷物を取り扱った沖仲士からの情報だ。
帆前船がサヴァナに到着するまでに郵便船はこの手紙を持っていくはず、さらに海底電信を通じてサヴァナ警察に、三人の紳士が殺人容疑でこちらで指名手配されていることが伝わるだろう。」
 とはいえ人間の企てたこと、最善をつとめても手落ちはあり、ジョン・オープンショウ殺害犯らは橙の種をついに受け取らず、知恵度胸劣らぬ第三者に追われていることに気づかずじまいであった。
その年の秋分の嵐は長々と荒れ狂った。
我々はいつまでもサヴァナからローン・スター号の知らせを待ったが、とうとう音沙汰なし。
やがて大西洋のはるか彼方、砕けた船尾の柱が波間に一本漂っているのが見つかり、そこにはLSの文字が彫ってあったとわかった。これを最後に、ローン・スター号の末路は杳として知れない。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Asatori Kato, Yu Okubo
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