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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Man With The Twisted Lip 唇のねじれた男 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「女性の勘は、分析的推理の結論よりも重いことがある。それは嫌と言うほどわかっております。
そしてこの手紙で、あなたは自分の直感が正しいと思えるような、強い証拠をひとかけら手に入れたように思えた。
ですが、もしあなたの配偶者が生きて手紙を書いたのだとしたら、どうして今、目の前に現れないのか。」
「わかりません。なぜでしょうか。」
「では月曜、出かける前に何か伝言は?」
「何も。」
「ではスウォンダム横町で見かけて驚かれた。」
「それはもう。」
「窓は開いてましたか。」
「ええ。」
「そのあと、彼はあなたを招いた。」
「そんな気が。」
「確認しますが、その声にならない声というのは、一度だけで?」
「ええ。」
「助けを呼んだとお考えで?」
「ええ、手を振っておりましたので。」
「しかし驚きの声だという可能性もあります。
思いもよらずあなたを見かけて仰天し、それで両手を上げたのでは?」
「そうかもしれません。」
「そして彼が引き戻されたのだと。」
「ぱっと、消えたんです。」
「自分で引っ込んだのかもしれない。
その部屋に、他に人影は見えなかったのでしょう?」
「ええ。でも、あの恐ろしい男がそこにいたと証言しておりますし、インド人が階段の下に。」
「無論です。彼は、あなたが見た限り、普段通りの服装だった。」
「でも、襟とタイがなくて、
喉がむき出しなのがはっきりと。」
「今までスウォンダム横町のことが話題には?」
「一切。」
「阿片に手を出す気配というのは?」
「ございません。」
「結構です、シンクレアさん。
このあたりは大事な点ですので、完全にはっきりさせておきたかったのです。
では少し夜食をいただいて、部屋へ下がるとしましょう。明日も忙しい一日になりますので。」
 部屋は広々として快適で、寝台もふたつあり、自由に使っていいとのことだった。私は早速、敷布のあいだに入った。ここまで夜のあれやこれやで疲れていたのだ。
だがシャーロック・ホームズは、心のなかにわだかまる問題があると、何日も、いや何週間も休みなく、そいつをひっくり返しては事実を再び並び替え、隅から隅までじっくり眺め回して、そいつを見極めるか、検討材料が不十分だとわかるかするまで起き続ける、そんな人間だった。
今日も私にはすぐにわかった。ホームズは今、徹夜の支度をしているのだ。
外套と胴着を脱いで、大きめの青の化粧着姿となり、それから部屋を歩き回って、自分の寝台からは枕を、長椅子や肘掛椅子からはクッションを拾い上げる。
それらを東側の壁にくっついている寝椅子に集めて、その上に腰を下ろしてあぐらをかいて、刻み煙草一オンスとマッチを一箱、目の前に置く。
ランプの放つ薄明かりのなか、私はホームズがそこに座っているのを見た。口には愛用のブライア製のパイプ、目をどことなく天井の隅に定めて、紫煙をもくもくと上げ、静かに、動きもせず、ただ光がそのこわばった鷲のような姿を照らす。
私が眠りに落ちたときもホームズはその姿勢だったし、突然の叫び声で私が目を覚ましたときも同じ姿勢だった。気がつくと夏の太陽が部屋に差し込んでいた。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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