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The Fall of the House of Usher Part Two(1) アッシャー家の崩壊


The Fall of the House of Usher Part Two アッシャー家の崩壊
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
100年余り昔のアメリカの作家,エドガー・アラン・ポオが書いた短編の一つを,「やさしい英語」の朗読でお送りします.
これらの物語は,特にアメリカの口語英語の理解に役立つように書いてあります.
また,これらは英語を話すのにも役立つことでしょう.
きょうは,ポオが書いた『アッシャー家の崩壊』という小説の第2部を聞いていただきましょう.
アッシャー家の最後の1人、つまり,アッシャー一族の最後の1人である,ロデリック・アッシヤーの異様な死についての物語です.
ロデリック・アッシャー-私は彼の少年時代を知っているのであるが-彼は現在は病の身で,私に助けを求めてきていたのである.
行ってみると,私は大きな古びた石の建物にも,建物の前の湖水にも,アッシャー自身にも,何か異様な恐ろしいふん囲気を感じたのである.
彼はおよそ人間とは思えないような様相をしていて,まるで墓場の向こうからもどってきた霊魂のようであった.
彼は,自分は必ず病気で死ぬんだと言った.
彼は自分の病気のことを恐怖と呼んでいた.
「ぼくは」彼は言った.「苦痛を恐れはしないが,その結末が恐ろしいんだ-恐怖が怖いんだ.
ぼくはまもなくある時がやってくるのを知っている.その時には,恐怖という恐ろしい敵と最後の戦いを交え,生命も心も魂もすべて失ってしまわなくてはならないんだ」
私はまた徐々にではあるが,彼のとぎれとぎれのわかりにくいことばを通して,アッシヤーの心中にある,もう一つの異様な事実を知った.
彼は自分が住んでいる家について,ある種の病的な恐怖を持っており,長年の間一歩も外へ出たことがないのである.
彼は,静かな湖水に囲まれた灰色の壁の家が,どういうわけか長い年月の間に彼の魂をしっかりと捕らえて離さなくなっているのだ,と思い込んでいるのである.
しかし,彼は次のようにも言った.自分の上に重くのしかかっている陰うつは,たぶんもっと明白な事柄に原因があるのであって,それは長年一緒に暮らしてきた唯一の同居者である,愛する妹の長患いとか,来たるべき死とかいったものだというのである.
彼自身を除いて,妹はこの地上における彼の家族の最後の一員なのである.
「彼女が死ぬと」彼は私の脳裏に焼きつくような悲痛な様子で言った.「彼女が死ぬと,ぼくはこの古い古いアッシャー家の最後の一員になるのだ」
彼が話している時に,レディー・マデリン(彼女はそう呼ばれていた)が部屋のずっと向こうのほうをゆっくりと通り過ぎたが,私がそこに居合わせたことに気づかなかったのか,彼女は行ってしまった.
私はあまりの意外さに驚き,不思議に思って恐る恐る彼女のほうに視線をやったが,その時の気持ちは我ながら不可解というよりほかはないと思った.
私は彼女から目を離さなかった.
彼女がドアのところまできて,彼女の背後でドアが閉まった時,私は彼女の兄の顔のほうへ目をやった.ところが,彼は両手の中に顔を埋めていて,私には,涙のこぼれ落ちるか細い指がいっそう白く見えただけだった.
レディー・マデリンの病気は,久しく前から医者に見離されていたのである.
彼女は何ひとつこの世のものには興味を示さないようであった.
肉体は徐々にやせ衰えていて,よくしばらくの間死人のように眠り込んでしまうことがあった.
それまでは,床につきっきりということはなかったのであるが,私が到着した日の夕刻には,彼女を破壊する力が(その夜,私は彼女の兄から聞いたのだが)彼女に打ち勝ったのである.
ただ一度見かけた彼女の姿が,私にとっては見納めになるだろう、少なくとも,あの婦人の生きている姿を見ることはもう二度とないだろう,ということを私は知った.
その後数日間は,アッシヤーも私も彼女の名前を口にしなかった.私はその間,友人の悲しみと憂うつを紛らわせようと努めていた.
私たちは一緒になって,絵を描いたり読書をしたり,ある時はまるで白日夢を見ているかのように,彼の奏でる荒々しい音楽に耳を傾けたりした.
そういうわけで,私たちの友情が親愛の度を加えるにつれて,この世のすべての物の上に底知れぬ憂うつをまき散らしている,陰うつな心を引き立てようとすることが,いかにむだな努力であるかということが,ますます明確になってきた.
私はアッシャ一家の主人と一緒に過ごした時のことを,決して忘れないだろう.
しかし,私たちが一緒にしていたいろいろのことが,本質的にどういうことだったのかということになると,到底私には説明できそうにないのである.
何もかもが異様な光に包まれていた.
彼の描いた絵は,どういうわけか私を身震いさせるようなものであった。
到底文字で説明できるようなものでもなかった.
もし,この世に観念というものを絵に描いた人間がいるとすれば,それはまさにロデリック・アッシャーである.
少なくとも私は,彼の絵からは恐怖となぞを感じずにはいられないのである.
しかし,これらの絵のうちで1つだけは,不十分ながら,ことばで伝えることができるかもしれない.
その絵は,死体が置かれているらしい部屋の中を措いたもので,回りの壁は低く,白くて何の飾り気もなかった.
地面からかなり深いところにある部屋のようだった.
ドアも窓もなく,明かりも火もなかったが,部屋をよぎる一筋の光が,身の毛のよだつようなぞっとする明るさで辺り一面を覆っていた.
彼の感覚の病的な状態のことは,先にも話したとおりであるが,これがために,大抵の音楽はアッシャーの耳には耐えがたいものでった。
快く聞こえる音楽はほんのわずかであった.
彼の奏でる音楽が一般の音楽と非常に違っているのは,おそらくここに原因があるのだ.
しかし,彼の演奏の荒々しい美しさは,どうにも説明できるようなものではなかった.
 
Reproduced by the courtesy of the Voice of America
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