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The Gift of the Magi 賢者の贈り物
O.Henry
AOZORA BUNKO 青空文庫
小銭は一回の買い物につき一枚か二枚づつ浮かせたものです。 乾物屋や八百屋や肉屋に無理矢理まけさせたので、 しまいに、こんなに値切るなんてという無言の非難で頬が赤くなるほどでした。
これでは、まったくのところ、粗末な小椅子に突っ伏して泣くしかありません。
そうしているうちに、 人生というものは、わあわあ泣くのと、しくしく泣くのと、微笑みとでできており、 しかも、わあわあ泣くのが大部分を占めていると思うようになりました。
この家の主婦が第一段階から第二段階へと少しづつ移行している間に、 家の様子を見ておきましょう。
全く筆舌に尽くしがたいというわけではないけれど、 浮浪者一掃部隊に気をつけるためにアパートという名前をつけたに違いありません。
階下には郵便受けがありましたが手紙が入る様子はなく、 呼び鈴はありましたが人間の指では鳴らせそうもありません。
その上には「ミスター・ジェームズ・ディリンガム・ヤング」 という名前が書かれた名刺が貼ってありました。
その「ディリンガム」の文字は、 その名の持ち主に週30ドルの収入があった繁栄の時代にはそよ風にはためいてきました。
でもいまや収入は20ドルに減ってしまい、 文字たちはもっと慎ましく謙遜な「D」一文字に押し縮めようかと真剣に考えているようでした。
しかし、ジェームズ・ディリンガム・ヤング氏が家に帰って二階のアパートに着くと、 すでにデラとしてご紹介済みのジェームズ・ディリンガム・ヤング夫人が、 「ジム」と呼びながら、いつでもぎゅうっと夫を抱きしめるのでした。
デラは泣くのをやめ、頬に白粉をはたくのに意識を集中させました。
デラは窓辺に立ち、灰色の裏庭にある灰色の塀の上を灰色の猫が歩いているのを物憂げに見ました。
明日はクリスマスだというのに、ジムに贈り物を買うお金が1ドル87セントしかありません。
何月も何月もコツコツとためてきたのに、これがその結果なのです。
ジムへの贈り物を買うのに1ドル87セントしかないなんて。 大切なジムなのに。
デラは、ジムのために何かすばらしいものをあげようと、長い間計画していたのです。
何か、すてきで、めったにないもの ―― ジムの所有物となる栄誉を受けるに少しでも値する何かを。
その部屋の窓と窓の間には姿見の鏡が掛けられていました。
たぶんあなたも8ドルの安アパートで見たことのあるような姿見でした。
たいそう細身で機敏な人だけが、 縦に細長い列に映る自分をすばやく見てとって、 全身像を非常に正確に把握することができるのでしょう。
デラはすらっとしていたので、その技術を会得しておりました。
急にデラは窓からくるりと身をひるがえし、その鏡の前に立ちました。
デラの目はきらきらと輝いていましたが、顔は20秒の間、色を失っていたのでした。
デラは手早く髪を下ろし、その長さいっぱいまで垂らしました。
Copyright (C) O.Henry, Hiroshi Yuki(結城 浩)