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The Gift of the Magi 2 賢者の贈り物2
O.Henry
AOZORA BUNKO 青空文庫
さて、ジェームズ・ディリンガム・ヤング家には、 誇るべき二つのものがありました。
一つはジムの金時計です。 かつてはジムの父、そしてその前にはジムの祖父が持っていたという金時計。
シバの女王が通風縦孔の向こう側のアパートに住んでいたとしましょう。 ある日、デラが窓の外にぬれた髪を垂らして乾かそうとしたら、 それだけで、女王様の宝石や宝物は色あせてしまったことでしょう。
また、ソロモン王がビルの管理人をやっていて、宝物は地下室に山積みしていたとしましょう。 ジムが通りがかりに時計を出すたび、王様はうらやましさのあまり、ひげをかきむしったことでしょう。
さて、そのデラの美しい髪は褐色の小さな滝のようにさざなみをうち、 輝きながら彼女のまわりを流れ落ちていきました。
髪はデラの膝のあたりまで届き、まるで長い衣のようでした。
やがてデラは神経質そうにまた手早く髪をまとめあげました。
ためらいながら1分間じっと立っていました。 が、そのうちに涙が一粒、二粒、すりきれた赤いカーペットに落ちました。
デラは褐色の古いジャケットを羽織り、褐色の古い帽子をかぶりました。
スカートをはためかせ、目にはまだ涙を光らせて、 ドアの外に出ると、表通りへ続く階段を降りていきました。
デラが立ち止まったところの看板には、 「マダム・ソフロニー。
デラは階段を一つかけのぼり、胸をどきどきさせながらも気持ちを落ち着けました。
女主人は大柄で、色は白すぎ、冷ややかで、とうてい「ソフロニー」という名前のようには見えませんでした。
「20ドル」手馴れた手つきで髪を持ち上げて女主人は言いました。
ああ、それから、薔薇のような翼に乗って2時間が過ぎていきました。
デラはジムへの贈り物を探してお店を巡っておりました。
それは確かにジムのため、ジムのためだけに作られたものでした。
それほどすばらしいものはどの店にもありませんでした。 デラは全部の店をひっくり返さんばかりに見たのですから。
それはプラチナの時計鎖で、デザインはシンプルで上品でした。 ごてごてした飾りではなく、 素材のみがその価値を主張していたのです ―― すべてのよきものがそうあるべきなのですが。
その鎖は彼の時計につけるのにふさわしいとまで言えるものでした。
その鎖を見たとたん、これはジムのものだ、とデラにはわかりました。
寡黙だが、価値がある ―― この表現は鎖とジムの両者に当てはまりました。
その鎖には21ドルかかり、デラは87セントをもって家に急いで帰りました。
この鎖を時計につければ、 どんな人の前でもちゃんと時間を気にすることができるようになるでしょう。
時計はすばらしかったのですが、 鎖の代わりに古い皮紐をつけていたため、 ジムはこそこそと見るときもあったのです。
Copyright (C) O.Henry, Hiroshi Yuki(結城 浩)