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The Last Leaf 4 最後の一葉4

O.Henry
AOZORA BUNKO 青空文庫
次の朝、一時間ねむったスーが目を覚ますと、 ジョンジーはどろんとした目を大きく開いて、降ろされた緑の日よけを見つめていました。
「日よけをあげて。見たいの」ジョンジーはささやくように命じました。
スーはしぶしぶ従いました。
けれども、ああ、打ち付ける雨と激しい風が長い夜の間荒れ狂ったというのに、 つたの葉が一枚、煉瓦の壁に残っておりました。
それは、最後の一枚の葉でした。
茎のつけねは深い緑で、 ぎざぎざのへりは黄色がかっておりました。 その葉は勇敢にも地上二十フィートほどの高さの枝に残っているのでした。
「これが最後の一枚ね」ジョンジーが言いました。
「昨晩のうちに散ると思っていたんだけど。
風の音が聞こえていたのにね。
でも今日、あの葉は散る。一緒に、私も死ぬ」
「ねえ、お願いだから」スーは疲れた顔を枕の方に近づけて言いました。 「自分のことを考えないっていうなら、せめて私のことを考えて。 私はどうしたらいいの?」
でも、ジョンジーは答えませんでした。
神秘に満ちた遠い旅立ちへの準備をしている魂こそ、 この世で最も孤独なものなのです。
死という幻想がジョンジーを強くとらえるにつれ、 友人や地上とのきずなは弱くなっていくようでした。
昼が過ぎ、たそがれどきになっても、 たった一枚残った つたの葉は、壁をはう枝にしがみついておりました。
やがて、夜が来るとともに北風が再び解き放たれる一方、 雨は窓を打ち続け、 低いオランダ風のひさしからは雨粒がぼたぼたと落ちていきました。
朝が来て明るくなると、ジョンジーは無慈悲にも、日よけを上げるようにと命じました。
つたの葉は、まだそこにありました。
ジョンジーは横になったまま、 長いことその葉を見ていました。
やがて、スーを呼びました。 スーはチキンスープをガスストーブにかけてかき混ぜているところでした。
「わたしは、とても悪い子だったわ、スーちゃん」とジョンジーは言いました。
「何かが、あの最後の葉を散らないようにして、 わたしが何て悪いことを思っていたか教えてくれたのね。
死にたいと願うのは、罪なんだわ。
ねえ、スープを少し持ってきて、それから中にワインを少し入れたミルクも、それから ―― ちがうわ、 まず鏡を持ってきて。それから枕を何個か私の後ろに押し込んで。 そしたら体を起こして、あなたが料理するのが見られるから」
それから一時間たって、ジョンジーはこう言いました。
「スーちゃん。わたし、いつか、ナポリ湾を描きたいのよ」
午後にあの医者がやってきました。 帰り際、スーも廊下に出ました。
「五分五分だ」と医者はスーの細く震えている手をとって言いました。
「よく看病すればあなたの勝ちになる。
これからわたしは下の階にいる別の患者を診なければならん。
ベーアマンと言ったな ―― 画家、なんだろうな。
この患者も肺炎なんだ。
もう高齢だし、体も弱っているし、急性だし。
彼の方は、助からんだろう。 だが今日、病院に行って、もう少し楽になるだろう」
次の日、医者はスーに言いました。 「もう危険はない。
あなたの勝ちだ。
あと必要なのは栄養と看病 ―― それだけだよ」
その午後、スーはベッドのところに来ました。ジョンジーはそこで横になっており、 とても青くて全く実用的じゃないウールのショルダースカーフを満足げに編んでおりました。 スーは、枕も何もかも全部まとめて抱きかかえるように手を回しました。
「ちょっと話したいことがあるのよ、白ねずみちゃん」とスーは言いました。
「今日、ベーアマンさんが病院で肺炎のためお亡くなりになったの。
病気はたった二日だけだったわ。
一日目の朝、 下の自分の部屋で痛みのためどうしようもない状態になっているのを 管理人さんが見つけたんですって。
靴も服もぐっしょり濡れていて、氷みたいに冷たくなっていたそうよ。
あんなひどい晩にいったいどこに行ってたのか、 はじめは想像もできなかったみたいだけど、
まだ明かりのついたランタンが見つかって、 それから、元の場所から引きずり出されたはしごが見つかったのよ。 それから、散らばっていた筆と、緑と黄色が混ぜられたパレットも。 それから、 ―― ねえ、窓の外を見てごらんなさい。あの壁のところ、最後の一枚のつたの葉を見て。
どうして、あの葉、風が吹いてもひらひら動かないのか、 不思議に思わない? 
ああ、ジョンジー、 あれがベーアマンさんの傑作なのよ ―― あの葉は、ベーアマンさんが描いたものなのよ。 最後の一枚の葉が散った夜に」
 
Copyright (C) O.Henry, Hiroshi Yuki(結城 浩)
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