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The Fall of the House of Usher Part One(2) アッシャー家の崩壊


The Fall of the House of Usher Part One アッシャー家の崩壊
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
私が通されたのは,たいへん広くて天井の高い部屋だった.
窓は高く上部がとがっていて,黒い床からははるか上のほうにあったので,とても手の届くような高さではなかった.
ただ一つの小さな赤い明かりが,ガラス越しに光を投げかけていたが,そばにある大きな物を照らし出すのがやっとであった.
私は部屋の高い四すみのほうを見ようとしたが,見えなかった.
壁には,黒ずんだ壁掛けが垂れ下がっていた.
数多くのいすやテーブルは,長い歳月にわたって使われたものだった.
部屋の回りに書物が置かれていたが,これとても部屋に活気を与えるようなものではなかった.
私には,すべてが悲しみに満たされているように思えた.
どうみても,この深く冷たい陰うつから抜け出すすべはなさそうであった.
私が部屋に入ると,アッシヤーはそれまで横たわっていたところから立ち上がって,とっさに現実とは思えないような温かさで私を迎えた.
しかし,彼の表情から察して,彼の言っていることはすべて真実であった.
私たちは腰をおろした.しばらくの間,彼は黙っていたが,私はあまりの意外さに悲しみに打ちひしがれて,彼の様子をながめていた.
私はロデリック・アッシヤーの変わり果てた姿を見て,人間はこんなにまで変わるものかと思った.
これが私の幼なじみの友だちだろうか.
彼は以前からこんな異様な顔をしていただろうか.
彼は膚が青白く,目は大きく輝いていて,くちびるは色あせてはいるが美しい形をしており,鼻の形も気品があり,頭髪はたいへんしなやかで,容易に忘れることのできない顔立ちであった.
ところが,彼は以前とはあまりにも容ぼうが変わってしまっていたので,私にはまるで別人のように思えた.
身の毛のよだつような膚の白さや,異様な目の輝きに,私は意外というよりは恐ろしさを感じた.
髪は伸び放題で,柔らかなために顔の上に落ちてこないで,宙に浮いたように見えた.
私には,どう見ても人間らしい容ぼうには見えなかった.
すぐに気づいたことであるが,彼の態度にはたびたび変化が見られた.私にはまもなく,こういった変化は,彼が大きないらだちを抑えようとしているためだということがわかった.
こういったことは,彼からの手紙や彼の少年時代の追憶からして,ある程度は予期していた.
彼の動作は初めは敏しょうすぎるかと思うと次の瞬間には緩慢すぎる,といった具合だった.
彼のしゃべり方は,ある時にはゆっくりとしていて恐怖に震えているかと思うと,たちまち力強く落ち着いた調子に変わり,注意深く間を取りながら話すので,すっかり自制心を取りもどしたような態度になった.
彼はこのようにして,私に来訪を求めた目的,私に会いたかったこと,私に会えば得られるだろうと思った深い喜びや励まし,などについて彼は語った.
彼は自分では病気の真の原因が何にあると思っているか,ということについて話をした.
自分の病気は遺伝的なもので,これ以上よくなる望みのない病気であると彼は言ったが,すぐそのあとでそれは神経病で,必ず近いうちによくなるのだとも言った.
そのことは,数々の異様な感情の起伏を見ればわかることであった.
彼が私に話したいくつかの奇妙な感情については,私にも関心があったが,とても理解することはできなかった.それらのことを彼が話す時の様子が,異様さをさらに強調していたからだろう.
彼は五感が病的に敏感になっていることにひどく悩まされていた.ほとんど味のないようなものでないと彼の口には合わなかった.どんな花も香りが強すぎて,彼にはかぐことができなかった.目はちょっと光を当てただけで痛みを覚えた.ほとんどの音は,聞いただけで彼を恐怖に陥れた.
彼は全く何かの病的な恐怖の奴隷であった.
「ぼくは死ぬんだ」彼は言った.
「ぼくは死ぬんだ.
この愚かな病に倒れて死ぬんだ.
こうして、必ずこうして死んでしまうのだ.
ぼくが恐れているのは,未来に何が起こるかということ、つまり,今起こっていることではなく,その結末なのだ.
ぼくは苦痛を恐れはしないが,その結末が恐ろしいんだ、恐怖が怖いんだ.
ぼくはまもなくある時がやってくるのを知っている.その時には,恐怖という恐ろしい敵と最後の戦いを交え,生命も心も魂もすべて失ってしまわなくてはならないんだ」
お送りしましたのは,エドガー・アラン・ポオの小説『アッシャー家の崩壊』の第1部でした.
この物語は「やさしい英語」で読んだものです.
朗読はダリル・クロックストンでした.
この物語は,特にアメリカの口語英語の理解に役立つように朗読したものです.
「やさしい英語」で聞けるポオの小説には,このほかに,次のようなものが用意されています.『アモンティラードーの樽(たる)』『モルグ街の殺人事件』『赤死病の仮面』『ウィリアム・ウィルソンの物語』などです.では,次回は,『アッシャー家の崩壊』第2部をお送りします.お聞き逃しのないよう.
 
Reproduced by the courtesy of the Voice of America
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