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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

A Scandal in Bohemia ボヘミアの醜聞 9

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 ソファの上でホームズは身を起こし、酸欠でもがく仕草を見せた。
女中が部屋を横切り、慌てて窓を開く。
時を同じくしてホームズが手を振った。私は合図と見るや、発煙筒を部屋へ投げ込み、「火事だ!」と叫んだ。
私の口から出た言葉は、群衆という群衆、紳士、馬番、女中、身なりのいいのも悪いのも、次々と飛び火し、皆が「火事だ!」と金切り声をあげるようになった。
部屋の中では濃い煙霧が渦巻き、開け放された窓からもあふれ出る勢いだ。
私は煙の中でうごめく人影を認め、直後、誤報だと群衆を鎮めるホームズの声がした。
私は叫ぶ人々の間をくぐり抜け、通りの角へと向かった。十分経過すると、我が友人が腕に手を通してくれ、喧噪の現場から立ち去ることが出来たので、一安心したものだ。
ホームズは無言で、数分の間きびきびと歩き、やがて我々はエッジウェア街に繋がる静かな通りに至った。
「素晴らしい出来だ、博士。」とホームズ。
「何も言うことはない。万事うまくいった。」
「隠し場所がわかった。」
「どうやって?」
「宣言通り、彼女が教えてくれた。」
「まだ雲をつかませておくつもりか?」
「僕とて雲作り職人ではない。」とホームズは笑う。
「全く単純なことだ。
もちろんのこと、通りにいた人は皆、協力者だ。
今夜のためにまとめて雇った。」
「そんなことだろうと思った。」
「それと、突発した喧嘩の際、僕は手のひらに溶かした紅を隠していた。
走り込んで、転倒、顔をひしと叩けば、哀れ見せ物の完成。
古くさいいんちきだ。」
「ある程度、察しが付いた。」
「人々に僕はかつぎ込まれた。
嫌とは言わせない、
あのとき他に何が出来よう? 
僕が怪しいと睨んでいた、あの居間へ通された。
居間か寝室のいずれかと踏んでいたが、どちらか見極めたかったのだ。
ソファに寝かされ、酸欠の振りをし、窓を開けるよう仕向けたので、いざ好機、というわけだ。」
「あれで役に立ったのか?」
「まさに作戦の核だ。
女性というものは、家が火事になれば、本能的に最も大切とするものへ駆け寄る。
いかんともしがたい衝動というもので、一度ならずも利用したろう。
ダーリントンすり替え疑惑やアーンズワース城の件でも世話になった。
既婚女性はその赤子を抱え上げ、未婚女性は宝石箱に手を伸ばす。
今日の淑女は我々の捜す物以上に、大事な物が家の中にあるとは到底思えない。
必ずやそこへ行くはず。
君の見事な叫び声。
煙との相乗効果で、鉄の心も揺るがせる。
彼女はあざやかに反応してみせた。
写真は右側、呼び鈴の紐のすぐ上、羽目板をずらした窪みの中にあった。
たちまち彼女はそこへ行き、半分出したのが垣間見えた。
僕が誤報だと叫ぶと、元に戻し、発煙筒を一瞥して部屋から飛び出したきり、姿が見えなくなった。
僕は身体を起こし、何とか口実を作り、家から抜け出したのだ。
すぐさま写真を手に入れるか躊躇したが、御者が入ってきて、僕を凝視するものだから、慎重になった方が安全だと思えたのだ。
急いては事をし損じるからね。」
「これからは?」と私。
「我々の調査は事実上、終了。
明日、王同伴で訪ねる予定だ。君も来たくば来たまえ。
居間で待つことになると思うが、彼女が現れたときには写真とともに消え失せるという寸法だ。
陛下も手元に取り戻せると満足なさることだろう。」
「いつ頃、訪ねるつもりだい?」
「朝八時。彼女はまだ起きていないだろうから、自由に仕事が出来る。
だが迅速に行動するに越したことはない。結婚で生活習慣が様変わりしているやもしれぬ。
早速、王へ電報を打つとするか。」
 我々はベイカー街にたどり着き、戸口で立ち止まった。
ホームズが懐に鍵を探ったとき、誰かが通りがかり声を掛けられた。「おやすみなさい、シャーロック・ホームズさん。」
 そのとき歩道には幾人かいたが、挨拶したのはアルスターをまとった細身の青年らしく、急ぎ足で去っていった。
「あの声、聞き覚えがあるが。」とホームズは街灯で薄く照らされた街並みに目を注ぐ。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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