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Episode-2 An Occurrence at Owl Creek Bridge.(1) アウルクリーク橋の出来事


Episode-2 An Occurrence at Owl Creek Bridge. (Ambrose Bierce) アウルクリーク橋の出来事(アンプローズ・ビアース)
AMERICAN SHORT STORIES
特別英語によるアメリカの短編小説の時間です.
きょうの小説の題名は『アウルクリーク橋の出来事』です.
これはアンプローズ・ビアースの作品です.
この物語の中の出来事-つまり,事件というのは1860年代,北部の州と南部の州が戦争をした時のことです.
ひとかたまりの兵士たちが,1人の南部の農場主を,アウルクリーク橋を渡ろうとする北軍の軍事行動を止めようとしたという理由で,今にも絞首刑にしようとしているところです.
この南部の捕虜は迫りくる死を前にして,自分が脱出した夢を見るのです.この物語の中の出来事というのは,実は,すべてこの捕虜が死ぬ間際に,頭の中で想像したことにほかならないのです.
では,物語をお聞きください.
1人の男がアラバマ州のある鉄橋の上で,下を流れるアウルクリーク川の急流を見下ろしながら立っていました.
この男は両手を後ろ手に縛られ,
首にロープをかけられていました.
ロープは頭上の橋の一部に結びつけてありました.
3人の北軍の兵士が彼のそばに立って,隊長が彼をつるし首にする命令を下すのを待ちかまえていました.
全員準備完了.
捕虜は静かに立っていました.
目隠しがしてないので,
彼は橋の下を流れる水を見下ろしました.
それから,彼は目を閉じたのです.
彼は最後に妻子のことに思いをはせたいと願っていました.
ところが,妻子のことを考えようとした時,彼の耳には,物音が何度も何度も聞こえてきたのです.
低かったその音が,だんだん大きな音になっていったために,彼は耳に痛みを感じ始めました.
彼はあまり痛みが激しいので,大声を張り上げたくなりました.ところが,彼の耳に聞こえていた音は,橋の下を流れる急流の音だったのです.
捕虜はばっと目を開いて,川の水を見つめました.
「手が自由にさえなれば」彼は思いました.「そうすれば,首からロープをはずして川へ飛び込むことができるぞ.
水中に潜って,兵士たちの銃撃を免れることができるかもしれない.
そうすれば向こう岸にたどりついて,森を通り抜け,家まで帰ることができるんだ.
私の家は北軍の軍事行動の地域外にあるんだから,あそこなら妻子はぶじだし,
私だって‥.」
これらの考えが捕虜の頭の中をかけ抜けている間に,隊長は兵士たちに捕虜をつるし首にする命令を出しました.
1人の兵士が素早く命令に従いました.
彼は捕虜の首に巻きつけたロープをきつく締め,橋の穴から落としました.
捕虜は落ちていきながら,自分が何もないまっ暗やみの中にいるように感じました.
ところが,彼は次の瞬間には,首に激しい痛みを感じ,息ができなくなりました.
考えることができなくなり,
ただ痛みを感じるだけでした.
その時,突然,音が聞こえたのです.何かが水中に落ちる音でした.
その音は彼の耳の中で大きく響きました.
辺りはすべてが冷たくて暗い感じでした.
再び思考力を取りもどすと,
ロープが切れて自分は水中にいるにちがいないと考えました.
しかし,ロープは依然として彼の首に巻きつけられ,手は縛られたままだったのです.
彼はこう考えました.「川の底でつるし首にあうなんて,これは一体どうしたことだ.おかしいじゃないか」
やがて,自分のからだが水面のほうへ浮き上がっていくのを感じました.
捕虜は自分が今何をしているのか,まるでわかりませんでした.
しかし,彼は両手で首のロープをつかんで引きちぎったのです.
今度は,彼がそれまでに経験したことのないような激しい痛みを感じました.
彼はもう一度ロープを首に巻きつけたいと思いました.
彼はやってみました‥.しかしできませんでした.
彼の手は水をかいて,彼のからだを水面へ押し上げたのです.
頭が水面に出ました.
彼の目は日光を受けて痛みました.
口を開けて空気を吸い込みました.
空気が入りすぎて,肺がはち切れそうです.
彼は悲鳴をあげながら空気を吹き出しました.
さて,捕虜は今までより,はっきりと考えることができるようになりました.
あらゆる感覚を取りもどしたのです.
 
Reproduced by the courtesy of the Voice of America
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