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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

A Scandal in Bohemia ボヘミアの醜聞 10

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫

 その晩、私はベイカー街に泊まった。翌日、我々が朝のトーストとコーヒーを摂っているとき、ボヘミア王が部屋へ駆け込んできた。
「手に入れたとな!」と王はシャーロック・ホームズの両肩をつかみ、顔をぐっとのぞき込んだ。
「まだです。」
「だが、見込みはあるのだな。」
「ございます。」
「では、来たまえ。もう我慢ならん。」
「辻馬車を呼びましょう。」
「いや、余のブルームが待たせてある。」
「それは助かります。」
と我々は階下へゆき、再びブライオニ荘へ向かった。
「イレーナ・アードラーは結婚しました。」とホームズ。
「結婚とな! いつのことか?」
「昨日です。」
「果たして何やつと?」
「イギリス人弁護士で、名をノートンと。」
「そんな男を愛すまい。」
「僕としては、愛していることを望みます。」
「なにゆえ望むのだ。」
「理由は、陛下は将来悩まされずに済むからです。
その女性が夫を愛せば、陛下を愛すことはない。
陛下を愛さないのなら、おのずと邪魔をする理由もなくなりましょう。」
「なるほど。それにしても――
ああ! 余の身分に相応しくあれば! なんと素晴らしき妃となったことか!」
と王はふさぎ込んで黙ってしまい、サーペンタイン並木道に着くまで口を開かなかった。
 ブライオニ荘の扉は開かれていて、年輩の女性が石段の上に立っていた。
ブルームから下りる我々を、女性は冷ややかな目で見守っていた。
「シャーロック・ホームズさまとお見受けしますが。」と女性。
「僕がホームズです。」とパートナーは答え、不審と驚きに満ちたまなざしを向けた。
「まぁ。奥様が、あなたがお越しになるとおっしゃったのです。
奥様は今朝方、旦那様とともに五時十五分、チャリング・クロス発大陸行の汽車でお発ちになりました。」
「何と!」とシャーロック・ホームズは無念と驚愕のため、顔面を蒼白にして、立ちくらむ。
「ご婦人は、イギリスを離れたと?」
「二度とお戻りになりません。」
「手紙と写真はいかに?」と王は声もかすれかすれに、
「万事やんぬるかな。」
「確かめましょう。」
とホームズは女中を押しのけ、居間へと飛び込んだ。王も私も後に続いた。
家具は部屋中に散乱し、棚は外され、引き出しは開いているという始末で、高飛びに先駆け、あの女性が引っかき回した様子だった。
ホームズは呼び鈴の紐へ駆け寄り、羽目板をずらし、手を突っ込んだ。出てきたのは一枚の写真と一通の手紙だった。
写真にはイヴニング・ドレス姿のアイリーン・アドラーが写っていて、手紙には『シャーロック・ホームズさまへ。ご訪問時は不在につき。』と宛名してあった。
友人は手で開封し、我々三人で読んだ。
日付は先の晩になっており、文面は次の通りである。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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