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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Five Orange Pips オレンジの種五つ 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 朝には空が晴れ、輝く日の光がこの大都会の上を薄く覆う靄をやわらかに照らしている。
シャーロック・ホームズは私が降りてきたときには朝の食卓にもう着いていた。
「君を待たずに失敬している。」と友人。「これから僕はオープンショウ青年の事件調査にせわしない一日となりそうだからね。」
「どんな作戦で行く?」と訊ねる私。
「そればかりは出端でばなの結果次第といったところか。
事によるとホーシャムへ出張ることになるかもしれぬ。」
「そこが先ではないのか。」
「いや手始めは中心区シティだ。
ひとつ呼鈴を鳴らしたまえ、女中が君の珈琲を持ってくるから。」
 待つあいだと私は卓上から閉じたままの新聞を取り上げて目を通した。
向けた先の見出しに思わずぞっとする。
「ホームズ。」と声を張る私。「手遅れだ。」
「なっ!」とホームズは珈琲皿を下に置いて、「まさかやはり。どうなった。」
と声は落ち着いているが、その大きな動揺が感じ取れて。
「目の先に、オープンショウの名前がある。見出しは『ウォータルー橋近くで悲劇』、
中身はこうだ。
 昨夜九時から一〇時のあいだ、H管区のクック巡査はウォータルー橋付近巡回中のところ助けを呼ぶ声と水にはまる音を聞く。
ところが当夜は真暗な嵐のこととて、通行人数人の協力にも関わらず救うを得ず、
警笛にて水上警察に援助を乞い、果たして遺体を得たり。
身元は懐にありし書簡にてホーシャム付近に住居せるジョン・オープンショウなる一青年紳士と判明したるが、
察するにこの青年紳士はウォータルー駅発の終列車に乗ぜんと急ぎの結果、夜闇よやみと焦りのため道に迷い、川蒸気桟橋から足を踏み外せるものらしく、
その死体には争った形跡なし、故人は不幸なる自己の犠牲となったに相違なし。いずれにしても浮き桟橋の現状に当局の注意を喚起すべき一件なり。」
 私はしばらく何も言わず座っていた。私はこのときほど動揺し落ち込むホームズを見たことがない。
「僕の自尊心は傷だらけだ、ワトソン。」との言葉がやっとだった。
「さもしい感情にすぎないが、自信が砕かれた。
これで一件は僕個人の問題になった。この身ある限りすべからく一味を引っ捕らえるべし。
僕へ頼ってきたというに、むざむざ死なせてしまうとは――!」
と椅子から飛び上がり、手も着けられぬほど気を高ぶらせ、室内を歩き回り、色白の頬を火照らせ、その細長い手を握ったり開いたり落ち着かない。
「相手は疑いなくずる賢い悪魔。」友人はとうとう叫び立て、
「青年をそこまでおびき出した手口は? 
橋の上は嵐の晩でも人通りが多くて果たせなかいからというわけか。
よし、ワトソン、どちらが最後に勝つかはっきりさせてみせる。
僕は今から出る!」
「警察か?」
「いや。その役は僕自ら引き受ける。
僕が網を張れば蠅は捕まえられても、それまでは無能だからな。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Asatori Kato, Yu Okubo
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