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The Memoirs of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの思い出

The Gloria Scott グロリア・スコット号 4

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
『まったく途方もない展開だよ。
一通の手紙が昨日、親父の元に届いた。フォーディンブリッジの消印があった。
親父はそれを読むなり、頭を抱えて、部屋の中をぐるぐる輪を描いて回り始めたんだ。ついに頭がおかしくなったのかと思ったよ。
捕まえてやっと長椅子に落ち着かせたときには、親父の口もまぶたも引きつっていて、卒中を起こしたことに気がついた。
すぐにフォーダム先生に来てもらって、寝台に運び込んだけど、痺れはひどくなる一方で、意識を取り返す兆しすらない。回復は絶望的なんだと、僕は思う。』
『恐ろしい話だ、トレーヴァ。』と僕はうなる。
『とすると、その手紙に何かあったわけだ、そんな恐ろしい結末に至らせるほどの何かが。』
『それが何もないんだ。そこが訳の分からないところなんだ。
文章は意味不明のくだらないことで、ああ、まったく、こうなることを恐れてたのに!』
 話をするうち、僕たちは並木道の角を曲がっていた。そして夕闇のなか、家の鎧戸がすっかり下ろされているのに気づいた。
僕たちは玄関に飛びついたが、親友の顔は悲しみのために震えていた。黒い服を着た紳士が、中から出てきた。
『最期はいつでした、先生。』とトレーヴァが訊く。
『お出かけになって、まもなく。』
『意識は戻りましたか?』
『ご臨終の前に少し。』
『僕に何か?』
『ただ、日本箪笥の裏の引き出しに書類がある、とだけ。』
 親友は医者と一緒に亡骸のある部屋へ上っていき、そのあいだ、僕は書斎に残って、この事件のすべてを繰り返し頭のなかで考えてみた。そして僕は、自分のことのように厳粛な気持ちになった。
この父君の過去とは何か? 拳闘家、旅人、金の採掘者。どうしてあのきつい顔の船乗りのいいなりになる羽目になったのか。
また、なぜ彼は半分ほど消した腕の入れ墨に気づかれて、気を失い、どうしてフォーディンブリッジからの手紙に戦慄して死んだのか。
そのとき、僕はフォーディンブリッジがハンプシアにあると思い出した。同時に、このベドウズという人、おそらく例の船乗りが訪ねていって強請るのであろうが、その人もハンプシアに住んでいると気づいた。
とすれば、その手紙は船乗りのハドソンから来たもので、隠していた罪が何かあって、それを密告するぞとでも言ったのか、でなければあるいは、ベドウズから、密告がなされそうだと、昔の仲間に警告してきたのか。
そこまではだいたいはっきりしている。
だがならば、その手紙が、どうして親友の言うように、くだらない妙なものなのか? 
読み方を間違ったに違いない。
だとすれば、それは巧妙な秘密の暗号の一種なのかもしれぬ。ある意味を示しているようで、本当は別の意味があるのだ。
その手紙を見なければならぬ。
そのなかに隠された意味があるとすれば、僕ならそれをつかみ出せるという自信があった。
一時間のあいだ、僕は薄闇のなかに座りながら考えていた。が、やがてひとりの女中が泣きながらランプを持ってきた。そしてその女中と入れ違いに、親友がやってきた。顔は青いが落ち着いていて、僕の膝の上にある、まさにこの書類を手にしていた。
彼は僕の向かいに座り、机の端の方へランプを引き寄せて、何かが書き殴られている小さな紙を、僕に手渡した。ほら、その一枚だ。その灰色の紙だ。
もはや鶏肉は順調にすべてロンドンへ出荷が終わった。
狩場の主任のハドソンは蠅取紙の注文の一切を必ず受けると知らせた。あなたの雌雉が危ないので主任に命じて高飛びを助けて落ちないようにしろ。
 実を言えば、この文章を初めて読んだとき、僕も今の君と同じように、困惑した顔をしていた。
そこで、僕はよく気をつけてもう一度読み返した。
それは確かに僕が考えた通り、不思議な言葉の組み合わせに何か意味が隠されているに相違なかった。
でなければ、『蠅取紙』や『雌雉』とかいう言葉に、前から特別な意味が決めてあるとでもいうのだろうか。
そんな意味があるとすれば、どのようにも決められるし、演繹のしようもない。
その上、僕としてもそれが正しいとは信じたくなかった。ハドソンという言葉が現れていることからも、この手紙の用件はさきほど推理した通りだとわかり、差出人がその船乗りではなくベドウズだともわかる。
僕は逆に読んでみた。『ろしにうよい……』と続いて萎えた。
そこで文節に切って、ひとつおきに読んでみたが、『もはや順調にロンドンへ終わった』や『鶏肉はすべて出荷が狩場の』では何の光も見えない。
 ふと、その瞬間、この謎を解く鍵を手に入れた。最初の言葉から始めて、文節ごと、2つおきに読んでいけば、ひとつの文章となる。それが父君を絶望へと追いやったのだ。
 ごく簡潔な警告文で、そこで、僕は友人にその文面を読んでやった。
もはやすべて終わった。ハドソンは一切を知らせた。危ないので高飛びをしろ。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Otokichi Mikami, Yu Okubo
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