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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Red-Headed League 赤毛組合 3

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
スポールディング、あれがちょうど八週間前、まさにこの新聞を手に持って、二階から降りてきて言うんですよ、
『ウィルソンの旦那、あっしも髪が赤かったらなぁ。』って、そこでわしは聞き返しましたよ。
『そいつはどうして?』って。
 するとあれは言うんです。『なぜって、ここに赤毛組合の欠員があるんですよ。
ここに入ればどんなやつでもちょっとした金持ちになれるんですよ。何でも、連盟の欠員を埋める人間が足りないらしくて、遺産管財人が宙に浮いた金をどうしていいか途方に暮れているらしいそうですぜ。
あっしの髪の色が変えられたら、連盟に入って金をくすねてやったのに。』
 だからわしは、『何、そいつぁ一体何の話だ?』と聞いてやりましたよ。
ほら、ホームズさん。わしは職業柄、出不精なんですよ。こっちから行くんじゃなくて、向こうから来てくれますからね。だから何週もドアマットをまたがないこともめずらしくないんで。
……そんなわけで、世間のことにはてんで疎いもんで、ちょっとしたニュースでも聞くと、気になってしまって。
 するとあれはね、『赤毛組合のことをご存じないんですか?』と、眼を丸くしやがるんですよ。
『ないなぁ。』とわしが答えると、
『ふぅん、そいつは不思議だ。旦那は空席にぴったりの資格を持っているっていうのに。』
『それは、どんないいことなんだい?』とわしは詳細を聞こうとしたんですわ。
『まぁ、たった一年に二百ポンドってところですが、仕事はわずかなもんですから、他の仕事の妨げにはなりませんぜ。』
 ってな訳でしてね、わしが耳寄りな話だと思ったのも無理ないことでしょう。ここ数年は商売がうまくいってなかったもので、一年に二百ものあぶく銭がありゃあ、とてもありがたいですから。
『詳しく聞かせてくれないか?』とわしはとうとう本腰になってきました。
『ええ。』と、あれはそう言って、あの広告をわしに見せるんです。『旦那、ほらここに空席があるでしょう、問い合わせ先だって載ってますぜ。
なんでも、その連盟ってのは百万長者の米国人、イズィーキア・ホプキンズっていう変人が設立したらしくて、
そいつ自身が赤毛だったもんだから、同じ赤毛の人間に大きく共感するらしいんです。てなもんで、死んだときに莫大な遺産を管財人に預けて、その利子を使って、自分と同じ色の髪を持つ男が楽に暮らせるように金を分配してくれ、と死に遺したらしいんです。
話によると、給料の気前はいいくせして、することはほとんどないときたもんだ。』
 わしはそこで少し不安になりました。『だが……志願してくる赤毛の男など、世間には五万とおるだろう?』
 だがあれはこう言うんで。『旦那が思うほど多くおりませんぜ。
ロンドン市民限定で、立派な大人じゃなくちゃなりません。
何でもその米国人は若いときロンドンから身を立てたみたいで、この懐かしい街に何か恩返しがしたいんだとさ。
それに赤毛といっても、薄いのや黒っぽいのはダメで、本当にきらきら燃えるような赤毛じゃなくちゃなりません。
ほらほらウィルソンの旦那、申し込みたいんだったら、ちょこっとそこに顔を出しゃいいんですが……旦那がたかが二、三百ポンドの金で出向かれることもないですよね。』
 そこまで言われてですね、事実、わしゃこの通り髪はまったくすばらしいほどの赤い色合いをしておりますので、このことで競うなら今まであったどんなやつにだって負ける気すらせんのですわ。
ヴィンセント・スポールディングは連盟のことに詳しくて、役に立つかもしれんので、その日は店を閉めて、ついてくるように言いつけましたよ。
あれも今日一日が休みになるのを喜びましてね、わしらは仕事を切り上げて、広告に示してある住所へと向かったんですわ。
 あんな光景は願っても二度と見られませんよ、ホームズさん。
北から南から、東から西から、髪の毛の赤いという男がだれも彼も、広告を見て中心区《シティ》へてくてくと行進して行くんでさ。
フリート街は窒息しそうなほど赤毛の人並みであふれていて、ポープス・コートはオレンジ売りの手押し車のようでした。
ただ一つの広告が国中からこんなにも大勢かき集めるとは、想像もつかんことですよ。
わら色、レモン色、オレンジ色、レンガ色、アイリッシュ・セッターみたいな色、レバー色、粘土色、ありとあらゆる色合いの赤毛がおりました。だがスポールディングの言ったとおり、本当に鮮やかな炎《ほむら》色はおらんのです。
こんなに多くの人が順番を待って並んでいるのを見ると、もう選ばれるわけがないとあきらめていたのですが、スポールディングが聞き入れないので同じように並んでいました。
そのときどうしたかおぼつかんのですが、あれはわしを押したり引っ張ったりして、人混みを抜けるまでいろんなものに当たりながら、事務所に続く階段の前まで連れてったんですわ。
そこには、希望を持って階段を上る人の列と、意気消沈して降りてくる人の列、その二つの人の流れがあってねぇ、わしらは何とかして列に無理矢理割り込み、ついに事務所の中に入ったんです……」
「それは何とも面白い経験をなされました。」ホームズは言った。ちょうど依頼人が話を中断し、嗅ぎ煙草を多めにつかんで、記憶を新たにしようとしているところだった。
「惹かれる話です。どうぞ、そのまま続けてください。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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