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Episode-8 Keesh(1) キーシュ


Episode-8 Keesh (Jack London) キーシュ (ジャック・ロンドン)
AMERICAN SHORT STORIES
「アメリカの声」が,特別英語によるアメリカの短編小説をお送りします.
小説の題名は『キーシュ』で,
原作者はジャック・ロンドンです.
では,ロイ・デビューがお伝えします.
キーシュは,北極海の海沿いに住んでいました.
エキスモー流に年を数えるとすると,彼は13回太陽を見た(13歳)ということになります.
エスキモーたちの間では,毎年冬になると太陽が出なくなって国中がまっ暗になりますが,翌年になると太陽がもどってきて,また暖かくなることになっているのです.
キーシュの父親は勇敢な男でしたが,食糧を求めて狩りに行った折に死んでしまったのでした.
ひとり息子だったキーシュは,母親のイキーガと二人きりで暮らしていました.
ある晩のこと,村の会議がしゅう長のクロシュ・クワンの大きなイグルー(氷や雪で作った半円形のエスキモーの家)で開かれていました.
キーシュも,ほかの人たちに交じって出席していました.
彼はじっと耳を傾けていましたが,そのうち話が途切れるのを待っていました.
「それはおっしゃるとおりです」彼は言いました.「あなた方が私たちに肉を与えてくださるのは事実です.しかし,よく古くて硬い肉だったり,骨が多かったりするんです」
ハンターたちは驚きました.
子どもが自分たちに向かって逆らうようなことを言うのですから,むりもありません.
子どもが,まるで大人のような口の利き方をするのです.
キーシュは言いました.「ぼくの父のボークは偉いハンターでした.
ボークは,一番腕のいいハンターの2人のだれよりも肉を持ち帰ったと言われていますし,父はみんなに公平にいきわたるように肉を分けたと言われています」
「いや,いや」居合わせたハンターたちは大声で言いました.
「その子どもをつまみ出せ.
寝かせるんだ.
年寄りに向かって,こんな口の利き方をしてはいかん」
キーシュは音が静まるのを待ちました.
「あなたには奥さんがいますね,アー・グルック」彼は言いました.「だから,あなたは奥さんのためになるように話をしているのでしょう.
ぼくの母はぼくのほかにはだれもいないんです.だからぼくが話すんです.
ぼくが言ったように,ボークはたくさん猟をしましたが,今はもう死んでしまっていないんです.
だから,ぼくたちの部族に肉がある時は,ボークの妻だったぼくの母や,その息子であるぼくが肉をもらうのは,きわめて公平なことではありませんか.
ボークの息子であるぼく-キーシュの話と思ってどうか聞いてください」
イグルーの中にまたもや大きな騒音が起こりました.
「子どものくせに,会議の席でそんな言い方をするもんじゃないよ」アー・グルックが言いました.
「一体,若い者が我々に向かって,指図をしてもいいものだろうか」マスークがたずねました.
議会は,キーシュに寝るように命じました.そして,彼には食料を与える必要がないのではないか,といったことまで話題になったのでした.
キーシュはぱっと立ち上がりました.
「ぼくの言うことを聞いてください」彼は大きな声で言いました.「ぼくは,二度と会議の開かれているイグルーで話をすることはしません.
ぼくは父のボークのように,肉を取るために狩りに出かけます」
キーシュが狩りの話をしたので,みんなが大笑いをしました.
キーシュが会議場から出ていく時も,笑い声がやみませんでした.
翌日,キーシュは陸地と氷が接している海岸へ向かって出発しました.
彼が出かけるところを見ていた人たちは,彼が弓と多くの矢を持っていくのを見ました.
肩には,父親の大きな狩猟用のやりをかついでいました.
この光景を見た人たちの間に,またもや笑い声が起こりました.
首を振る者もいれば,
女たちはキーシュの母親のほうを見て,彼女を気の毒に思ったりしました.
「すぐに帰ってくるわよ」彼女たちは母親に言いました.
「心配することはないわよ」
1日たち,2日たって,
3日目になって強い風が吹きましたが,キーシュからはなんの消息もありません.
彼の母親のイキーガは,あざらしの油を焼いたものを顔に塗って,悲しみを表しました.
女たちは,小さい男の子を一人で行かせるなんてひどいことをしたものだと,夫に食ってかかりました.
男たちは何も答えずに,キーシュの遺体を捜しに出かける準備を整えました.
翌朝早く,キーシュが歩いて村へもどってきました.
両肩に新しい肉をかついでいました.
「さあ,みんな行ってください.犬を連れてそりで行くんです.ぼくの足跡をたどってください.ここから1日で行けます」彼は言いました.
「氷の上に肉がたくさん置いてあります-めすぐまが1頭とそのこぐまが2頭です」
彼の母親は大喜びです.
キーシュは一人前の男になったような顔をして,母親に言いました.「さあ,イキーガ,食べましょう.
食べたらぼくは寝ることにします.疲れてますから」
キーシュが自分のイグルーに帰ったあと,みんながいろんなことを話しました.
くまを殺すのは危険なことだが,子連れの母親ぐまを殺すのはその3倍ぐらい危ないことです.
男たちは,キーシュにそんなことができるはずはないと思っていました.
しかし,女たちは新しい肉を指さしました.
とうとう,男たちは残っている肉を取りにいくことに同意しましたが,彼らにとっては,あまり愉快なことではありませんでした.
1人の男が,たとえキーシュがくまを殺していたにしろ,肉を小さく切り分けてはいないだろう,と言いました.
ところが,男たちが現場に着いてみると,キーシュはくまを殺したばかりか,大人のハンターのするように肉を小さく切り分けてあるのです.
こういうわけで,キーシュについてのなぞが生まれたのです.
彼は次の狩猟では若いくまを1頭殺しましたし,その次の狩猟では大きなおすぐまとその連れ合いを殺しました.
「一体,どんな方法でやるのかな」ハンターたちは互いにたずねました.
「彼は犬さえも連れていかないんだよ」
そのころ,村では奇術や魔法のことが話題になっていました.
「あの子は悪魔を使って狩りをするんだ」と一人が言いました.
「ひょっとすると,あの子の父親の霊があの子にのり移って,狩りをしているのかもしれない」もう一人が言いました.
しかし,キーシュは相変わらず村へ肉を持って帰ってきました.
あの子は偉大なハンターなんだ,と考える人たちもいました.
キーシュにクロシュ・クワンのあとを継がせてしゅう長にしよう,という話が持ち上がりました.
みんなが今度はキーシュに会議に来てもらいたいと思って待っていました.しかし,彼は会議に現れませんでした.
「ぼくはイグルーを作りたいんです」ある日,キーシュが言いました.「でも,ぼくには暇がありません.ぼくの仕事は狩りに行くことです.
だから,ぼくの肉を食べる村の男や女たちが,ぼくのイグルーを作ってくれてもいいはずです」
かくしてイグルーが作られました.
そのイグルーは,しゅう長のクロシュ・クワンのイグルーよりもさらに大きかったのです.
 
Reproduced by the courtesy of the Voice of America
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