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Episode-8 Keesh(2) キーシュ
Episode-8 Keesh (Jack London) キーシュ (ジャック・ロンドン)
AMERICAN SHORT STORIES
「おまえは,悪魔を使って狩猟をしているっていうじゃないか.悪魔に手伝ってもらって,くまを殺してるってうわさだよ」
「この村で,だれかぼくの肉を食べて,病気になった人がいるとでもいうのですか.
ぼくに悪魔がのり移っているなんてことが,どうしてわかるんですか.
それとも,ぼくが腕のいいハンターだから,そうおっしゃるんですか」
ア一・グルックにはなんとも答えようがありませんでした.
夜遅くまで会議が続けられ,キーシュと肉のことが話し合われました.
会議ではキーシュの行動をこっそり探ることに決まりました.
次にキーシュが狩猟に出かける時に,ビムとバウンという2人の若いハンターが尾行しました.
「同胞のみなさん」ビムは言いました.「我々はキーシュのあとをつけましたが,キーシュは我々のことに気づきませんでした.
くまは後ろ足で立ち上がってうなりましたが,キーシュはくまのところまで歩み寄ったんです」
「ぼくたちは,この目で見てきたんです」もう一人のハンターのバウンが言いました.
キーシュは逃げましたが,彼は逃げながら氷の上に小さな丸い玉を落としたんです.
くまは立ち止まって,その玉をかいでみてから食べたんです.
キーシュはさらに多くの玉を氷の上に落としながら,走りつづけました.
会議に出席した連中は,一言も聞きもらすまいと耳を傾けました.
「そのくまが突然まっすぐに立って,痛みを訴えて悲鳴をあげ始めたんです.
くまはうなりながら,上下にぴょんぴょん跳びました.
「悪魔がついてるんだ」とアー・グルックが言いました.
「ぼくは,ただこの目で見たとおりのことを話してるんです.
くまは頭を左右に振らせながら,岸に治って歩いていましたが,やがて座り込んで,鋭いかぎづめで自分の毛皮を引っ張るんです.
キーシュは,その日,一日中じっとくまを見守っていました.
それから,もう3日間キーシュはくまの見張りを続けたんです.
キーシュは用心深くくまのところまで近寄って,父親のやりをくまに差し込んだのです」
その日の午後,議会は十分時間をかけて話し合いました.
キーシユが村に帰ってくると,議会は使いを送って,キーシュに会議に出てくれるようにと頼みました.
しかしキーシュは,自分はおなかがすいていて疲れている,と言いました.
彼は議会が集会を開きたいのなら,自分のイグルーは大きくて大勢の人が入ることができる,と言いました.
クロシュ・クワンは,議員を引き連れてキーシュのイグルーへやってきました.
キーシュは食事中でしたが,喜んで一同を迎えました.
クロシュ・クワンはキーシュに,2人のハンターがキーシュがくまを殺すところを見たことを告げました.
それから,彼はキーシュに向かってまじめな声で言いました.「我々はおまえがどうしてやったのか,その方法を知りたいと思っているんだ.
「いいえ,クロシュ・クワン.ぼくは子どもです.奇術や魔法のことは何も知りません.
ただぼくは,北極ぐまの簡単な殺し方を見つけただけなんです.
男たちは互いに顔を見合わせ,キーシュは食事をしています.
キーシュは,細いくじらのひげを1本拾い上げました.
急にこのひげを離すと,ぴしっという鋭い音を立てて,まっ、すぐになりました.
「さて」彼は言いました.「まず,細いよくとがらせたくじらのひげで輪を作ります.
そして,このひげの輪をあざらしの肉の中へ入れるんです.
肉がくまの体内に入ると,肉が溶けて,ひげがぴしっとはねるんです.
そしてクロシュ・クワンは言いました.「なるほどねえ!」
そして,みんなはそれぞれの言い方をしましたが,みんななるほどとわかったのでした.
これが昔,北極海の海沿いに住んでいたキーシュの物語です.
彼は魔法の代わりに知恵を使いましたので,一番貧しいイグルーの子どもから,村のしゅう長になったのです.
そしてその後は,村人は幸せに暮らすことができました.
「アメリカの声」では来週も同じ時間に,特別英語によるアメリカの短編小説をお送りします.
Reproduced by the courtesy of the Voice of America