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LITTLE WOMEN 若草物語 18-2

Chapter Eighteen Dark Days つづく暗い日 2

Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
「昨日、電報うったのさ。そうしたらブルック先生から、すぐ帰るという返電さ。だから、おかあさんは、今晩お帰りになる。そうすれや、万事好都合だろう。ぼくのやったこと気にいらない?」
 ジョウは、狂喜してさけびました。「おおローリイ! おかあさん! うれしい!」
 ジョウは、ローリイにしがみつき、めんくらわせてしまいました。
けれど、ローリイは、おちついて、ジョウのせなかをさすり、気がおちつくのを見て、二三度はずかしそうにキッスをしました。それで、ジョウはきゅうにわれにかえり、
やさしくかれをおしのけ、息をはずませながらいいました。「だめよ、あたしそんなつもりじゃなかったのよ。いけなかったわ。でもハンナがあんなに反対したのに、電報うって下すったと思うと、うれしくて、とびつかずにいられなかったの。
 ローリイは、笑いながらネクタイをなおしました。「かまわないさ。
ぼくもおじいさんも、とても心配でね。
もしもベスに万一のことでもあれば、申しわけない、
それでぼくかえって決心して、うってしまったんだ。
「ローリイ、あなた天使だわ。どんなにおれいいっていいかわからないわ。」
「じゃ、もう一度とびつきたまえ。」と、ローリイがいたずらそうな顔をしていいました。
「いいえ、もうたくさん、おじいさんがいらしたら、とびついてあげるわ。
さ、あなたはお迎えにいって下さるのだから、早く帰ってお休み下さい。」
ハンナは、「おせっかいな小僧さんだが、かんべんしてあげましょ。おくさまが早くお帰りになるから。」と、いいました。
 新らしい空気がさっと流れこんで来たようなよろこびでした。
あらゆるものが希望にみちて来ました。
姉妹たちは、顔を合せるごとに、おかあさんが帰っていらっしゃるのよと、はげまし合うようにささやきました。
ベスだけは、見るも痛ましく、おもくるしい昏睡状態におちていましたが、
それでも姉妹たちは神さまとおかあさんを信頼していますので、今までほど心は苦しくありませんでした。
バンクス先生が来て、よくなるか、わるくなるか、いずれにしても、ま夜中ごろ変化が起るだろうから、そのころまた来るといって帰っていきました。
 ハンナはつかれきって、ソファに横になってねてしまいました。ローレンス氏は客間をあちこち歩きまわっていました。
姉妹たちは、すこしもねむくなくて、一生忘れることのなさそうな、ひきしまった気持でベスのそばにいました。
「もし神さまがベスをお助け下すったら、あたしもう二度と不平をいわないわ。」 メグが熱心にささやくと、
ジョウも「あたしは、一生、神さまにお仕えする。」と、答えました。
 やがて、十二時が鳴りました。二人はベスのやつれた顔に、なにか変化が起ったような気がしたので、われ知らず病人の顔を見まもりました。
家のなかは死のように静まり、むせび泣くような風の音だけが聞えました。
一時間がすぎましたが、ローリイが停車場へ迎えに出かけたほか、なにごとも起りませんでした。
さらに一時間すぎました。吹雪のために汽車がおくれたのでしょうか、それとも、おとうさんに大きな悲しみでも起ったのではないかしら。あわれな姉妹たちは、また心をなやましはじめました。
あ、ベスが死んだがメグはこわくてあたしにいえないのだと考えると、さっとつめたい恐怖が全身に通りすぎました。
苦しそうなようすは消えていかにも安らかな顔です。ジョウは泣く気にも、悲しむ気にもなれず、
かわいいベスの上に身をかがめて、そのしめった額に唇をあてました。「さようなら、ベス、さようなら!」
 その気配でハンナが目をさまし、いそいでベッドのそばへ来て、手にさわったり、唇に耳をあてて息をしらべたりしていましたが、「ありがたい、熱がさがりました。すやすやねていなさる。肌もしめっているし、息もらくになられた。」と、いいました。
 姉妹がこのうれしい変化を信じかねているうちに、バンクス先生が来て保証してくれました。
 お医者が帰ってから、メグとジョウとハンナは、大きな安心のなかで、抱いたり、手を握り合ったり、よろこびのなかで、ゆめのような時間をすごしました。
 冬の夜は、ようやく明けはじめました。
「あの子が目をさましたら、このかわいいばらと、おかあさんの顔が、一ばんはじめに見えるようにしてあげよう。」と、いいました。
 メグとジョウは、長い、悲しい一夜を明かし、おもいまぶたに、あかつきの空をながめたとき、こんなに美しい朝を見たことがないと思いました。メグが、
「まるで、おとぎの国みたいねえ。」と、いってほほえむと、ジョウがとびあがって、
「あら、お聞きなさい!」と、いいました。
 そうです。ベルが鳴り、ハンナとローリイのうれしそうな声、「おかあさんのお帰りですよ!」
 
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani
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