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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

A Scandal in Bohemia ボヘミアの醜聞 6

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
結構な美男子で、浅黒く、鷲鼻、口ひげのある男で、まさしくうわさに聞いた男その人であった。
どうも火急のようで、御者に待てと叫ぶと、扉を開けた女中を押しのけ、家を熟知している風に飛び込んでいった。
 三十分ほど在宅し、窓ごしに姿を視認できた。居間を歩き回り、腕を振って熱弁していたが、
女はみとめられなかった。
ほどなく男は家から出てきたが、先より慌てている様子だった。
馬車に乗り込み、懐から金の懐中時計を取り出し、まじと見たのだ。 言うには、『韋駄天で頼む。まずはリージェント街のグロス&ハンキィに寄って、それからエッジウェア通りの聖《セント》モニカ教会だ。
二十分でゆければ半ギニィやろう!』
 馬車は行ってしまい、追うべきか追わざるべきか悩んでいると、小道の奥からしゃれた小型のランドー型馬車がやって来た。見ると、御者の上着はボタン半分で、ネクタイは耳の下までずれているし、馬具はいずれもまともに留められていないという始末。
門前にくるやいなや女が玄関から飛び出し、乗り込んだ。
一目しか伺えなかったが、実に麗しき女性で、男が命を捧げるのもうなずける。
 彼女の場合は、『聖モニカ教会です、ジョン。二十分で着けましたら、半ソヴリン差し上げます。』と言った。
 またとない好機だったのだ、ワトソン。
走って追うべきか、馬車の後ろに飛び乗ってしがみつくべきか、そこへ通りをぬって辻馬車がやってきたのだ。
御者は僕のぶざまな恰好を二度もにらんだが、有無も言わせず飛び込んで、こう言った。
『聖モニカ教会だ。二十分で着けば半ソヴリンくれてやる。』
 時は正午二十五分前。何が起こるか察しが付いた。
 馬車は速かった。あんなに速いとは思わなかったが、先の二つには追いつけなかった。
到着した時点で、ハンソムもランドーも熱気収まらぬ馬とともに、入口前に停車していた。
代金を支払い、教会へと急いだ。
人気はなく、中にはただ三人、追った二人とサープリスを着た牧師だけだった。牧師は何やら二人をいさめているようで、
三人ともひとかたまりになり祭壇の前に立っていた。
僕は教会へぶらり立ち寄ったならず者の振りをし、側廊をうろついた。
すると驚いたことに、突然、祭壇の三人が僕の方を顧み、ゴドフリィ・ノートンに至っては全速力で駆けてくるのだ。
『神に感謝する。』とノートンはのたまってね、『君でいい、来たまえ、こっちに来たまえ!』
 僕は『何事でさ。』と訊いたのだが、
『来るんだ、君、来てくれ。もう三分しかないんだ、法的に通用しなくなる。』
 と半ば引きずられるようにして祭壇へ連れていかれ、気が付くと小声で教え込まれたことを呟き、訳の分からぬ事を誓わされたあげく、独身女性アイリーン・アドラーと独身男性ゴドフリィ・ノートンの結婚の立会人になってしまった。
式はあっという間で、左右からは紳士淑女に礼を述べられ、正面では牧師がにこやかに笑っている次第だ。
しっちゃかめっちゃか、とはまさにこの事だ。先ほど笑ったのは、このことを思い出したからだ。
証明書に何かしら不備でもあったのだろう、牧師は立会人なしでは結婚を認めぬと。人を捜しに出ようと思った矢先、幸運にも僕が現れたものだから、花婿は通りに出る手間が省けたというわけだ。
花嫁は僕にソヴリン金貨一枚をくれてね、事の記念として時計鎖に付けておこうと思う。」
「思いがけない展開となったな。」と私。「それから?」
「うむ、調査が危機的状況にあることに気が付いた。
二人がすぐ旅行に行くやもしれん。僕としても、早急に効果的な手を打たねばならぬ。
しかし二人は教会の前で別れた。男は学院へ、女は自宅へ馬車で引き返すようだ。
『いつものように、五時、馬車で公園へ。』と去り際に女は言い、
それ以上の言葉は聞こえなかった。
二人の馬車は別の方向へ走り去っていき、僕は手筈を整えるため舞い戻ったわけだ。」
「手筈?」
「コールド・ビーフと一杯のビールだ。」と呼び鈴を鳴らし、
「忙しくて食べ物のことなど忘れていた。今宵は別のことで忙しくなるだろうがね。
ところで博士、協力して欲しいことがある。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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