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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

A Scandal in Bohemia ボヘミアの醜聞 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「法を犯すことになっても?」
「構わん。」
「捕まるおそれも。」
「正当な理由あらば。」
「ああ、大義がある!」
「では、なんなりと。」
「それでこそ頼りがいがある。」
「しかし、何をするつもりだい?」
「ハドソンさんが皿を並び終えたら、明かそうではないか。ほら。」とホームズは家主の用意してくれた簡単な食事にありつく。「食べながら説明しよう。時間が足りないのだ。
もう五時か。
二時間後には現場にいなければならぬ。
アイリーン嬢、いや夫人か、七時には馬車で戻ってくる。
ブライオニ荘でご対面だ。」
「それから?」
「この件に関しては、僕に身を預けてくれたまえ。
手筈はすでに整えてある。
ただ一つ、言っておきたいことがある。
たとえ何が起ころうと、手出し無用だ。いいかね?」
「傍観というわけか。」
「何もしてはいけない。
きっと、気分を害することが起こると思うが、
関わり合いにならんことだ。最終的に、僕は家の中へ運ばれてゆくこととなる。
四、五分すれば、居間の窓が開くだろう。
君は窓のそばに身を潜めておく。」
「うむ。」
「僕の姿が見えるはずだから、目をこらす。」
「うむ。」
「手を振るから――そこで――これから渡すものを部屋に投げ込んでくれたまえ。同時に、火事だ、とわめくんだ。
ここまではいいかね?」
「問題ない。」
「取り扱いに注意するほどのものではない。」とホームズは懐から葉巻型の長い筒を取りだした。
「配管工が使うごく普通の発煙筒だ。自動着火するよう、雷管が両端に付されている。
君の役目はこいつだけだ。
火事だと叫けば、大勢の野次馬が同調してくれるだろう。
通りの外れまで歩いてゆけば、僕は十分で戻ってくる。
この説明でわかったかね?」
「私は傍観し続け、窓のそばへ寄り、君を見、合図があればこいつを投げ込み、火事だとわめいて、通りの角で君を待つ。」
「いかにも。」
「よし、私に任せてくれ。」
「見事だ。もうそろそろ時間だ、僕は新しい役柄にならねば。」
 ホームズは寝室に姿を消したかと思うと、ものの数分で、愛想が良く善良そうな非国教会の牧師になって戻ってきた。
鍔広の黒い帽子、よれよれのズボン、白いネクタイに親切そうな笑顔、慈悲深く世話焼きな風貌、いずれをとっても名優ジョン・ヘアに負けず劣らずだ。
ホームズは単に服装を変えているには終わらない。
犯罪の専門家になったため、演劇界は名優を失い、科学界も名研究家を失った。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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