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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Dancing Men 踊る人形 9

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「エルシィが死ぬなら、どうなろうが知ったこっちゃねえ。」とアメリカ人は言った。
そして片方の手を開いて、手の上に乗るしわくちゃの書き付けをのぞきこんだ。
「見てくれよ。」男は声を張り上げた。目には疑いの色が満ちている。「まさか俺を担ごうって腹じゃないだろうな?
 あんた方の言うように、ご婦人が怪我をしてるんなら、誰がこいつを描いたんだ?」
「僕が描いた。君をここへ呼ぶために。」
「お前が描いたって? おれら一味のほかは、誰一人この踊る人形の秘密を知らねえはずだ。
どうやって描きやがった?」
「人の作りしものならば、また人は解くことができる。」とホームズ。
「君をノリッジへ運ぶ馬車がこっちに向かっている、スレイニくん。
しかしまだ、おのれの生んだ悲劇に対して、多少の罪滅ぼしをする時間はある。
知っているかね? 実はヒルトン・キュービット夫人は、その夫の殺害に関して、大きな疑いをかけられているのだ。そして、ここへ来た私がたまたま持ち合わせていた知識で、運良く告発を免れえたのだ。
君がご婦人に対してできる最後のつぐないとして、ご 婦人はこの惨劇の結果について、直接にも間接にも、決して責任がないことを全世界に対して明らかにしたまえ。」
「願ってもないことだ。」そのアメリカ人は言った。
「俺も、自分にできる最善は、ありのままのことをしゃべっちまうことだと思います。」
「職務上忠告しておくが、自分に不利な証拠として扱われることもあるぞ。」警部は、大英帝国刑法の崇高なる公正のため、口を挟んだ。
スレイニは肩をすくめて、
「運に任せるさ。」と言ってから、語り始めた。
「まずあんた方にご理解いただきたいのは、俺とあいつは幼なじみってことです。
俺たち七人はシカゴで徒党を組んでて、エルシィの父親は一味のボスでした。
頭の切れる男で、パトリックのおやじと呼んだもんです。
その暗号を考え出したのもおやじで、普通はガキのいたずらにしか見えません。たまたま鍵を持っちまったあんたは例外さ。
そんで、エルシィは俺らの稼業にちょっと気づいちまって、こんな仕事にはたえきれねえって、ちっとばかり自分で作ったまともな金を持って、俺たちをまいてロンドンへ逃げちまったんです。
あいつと俺はそんとき婚約済みで、俺は思うんですが、俺だって別の商売をやってりゃあ、結婚してくれたはずです。要は、裏の仕事にどうしてもかかわりたくなかったってことですよ。
俺があいつの居場所をつきとめたときには、もうこのイギリス人と結婚したあと。
手紙を出したんですが、返事はなし。
そんで俺はわざわざやってきて、手紙も無駄でしたから、あの伝言を目のとまるところに置いたんです。
とにかく、俺がここに来てもう一ヶ月です。あの農場にとまって、地下室を借りてたんで、夜は自由に出入りできたし、誰一人気づかなかった。俺はあれこれエルシィをそそのかしてみました。確かに伝言は読んでるらしく、一度は返事をくれましたからね。
そこで俺は調子に乗って、あいつを脅し始めたんです。
するとあいつは一通の手紙をよこして、俺に立ち去るよう頼み込んできました。夫の身辺で不名誉なことが起きるかと思うと、気が気でないってね。
あいつは夫の寝静まった午前三時に抜け出して、突き当たりの窓まで出て話はなしすっから、それきり立ち去って、静かに暮らさせてくれ、って言ってきました。
実際あいつが来たとき、あいつは金を持ってきて、その金で俺をどこかへやっちまおうとしたんです。
そんで、俺はかっとなって、あいつの腕を取って、窓から引きずりおろそうとしました。
と、その瞬間、あいつの旦那がリヴォルヴァを持って飛び出してきました。
エルシィは床の上にくずおれていたんで、俺たちは顔と顔を向き合わせた格好だったんです。
俺も武器を持ってたんで、拳銃を取り出して、旦那を脅かして逃げようとしました。
けど向こうが撃ちやがって、外れて、俺も同時にぶっ放して、向こうが倒れちまいました。
俺は庭を踏み越えていったんですが、走りながら、後ろの方で窓を閉める音が聞こえました。
神に誓って、みなさん、偽りはひとつもねえ。あとはもう、あの少年がこの手紙を持ってきて、俺はカケスみたいにここへのこのこやってきて、あんた方に捕まった、それだけです。」
馬車はもう、アメリカ人が話すうちに着いていた。
その中には制服の巡査がふたりいた。
マーティン警部は立ち上がり、犯人の肩に手をかけた。
「さあ行こう。」
「ひと目あいつに!」
「ダメだ、まだ意識が戻ってない。
シャーロック・ホームズ先生。今度も大事件があったときは、そばでご一緒する幸運にめぐまれたいものです。」
我々は窓際に立って、馬車の遠ざかってゆくのをながめた。
私が振り返ると、犯人が卓上に投げていった、くちゃくちゃの紙切れが目に入る。
それはホームズが犯人をおびき寄せた書き付けであった。
「それが読めるかね、ワトソン。」と、ホームズはほほえんだ。
そこには文字でなく、踊る人形が次のように短く描かれていた。
「僕が説明した暗号表を用いれば、すぐわかる。」とホームズは言う。「ごく単純に『すぐに来い』(COME HERE AT ONCE)。
こうやって呼べば、あの男も断るまいと確信していた。何しろあの男は、あのご婦人以外に書ける者があろうとは思ってもみなかったのだ。
かくして、ワトソンくん、かつて悪の手先であったこの踊る人形を、僕らは最後に改心させることができた。そして僕も、君の備忘録の中に、またひとつ不思議な事件を加えるという約束を果たせたというわけだ。
三時四十分の汽車に乗れば、ベイカー街に戻って夕食にありつける気がする。」
結びの言葉を一言だけ。
アメリカ人、エイブ・スレイニは、ノリッジの冬季巡回裁判で死刑を宣告されたが、軽減に値する事由があり、ヒルトン・キュービット氏が先に撃ったことが確実であったので、刑を改めて懲役刑とされた。
ヒルトン・キュービット夫人については、その後、快癒の知らせを受け取ったものの、再婚もせず、余生を救貧事業と亡き夫の遺産管理に捧げていると聞くのみである。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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