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His Last Bow シャーロック・ホームズ最後の挨拶

The Adventure of the Devil's Foot 悪魔の足 5

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
午後になってコテージに戻ってくると、客が待っていて、我々の思考は目下の問題に引き戻された。
その客人が誰か、2人とも教えてもらう必要はなかった。
巨大な肉体、獰猛な目つき、鷹のような鼻、深い皺が刻まれた岩のような顔。天井にこすりあわされんばかりの白髪混じりの髪。顎鬚は端で金色、口元では白色、あとはひっきりなしに吸っている葉巻のせいでニコチンに染まっていた。こうした特徴は、アフリカでもロンドンでもよく知られている。連想されるのは、あの途方もない人物でしかありえない。偉大なるライオンハンターにして探険家たるドクター・レオン・スタンデールだ。
我々もこの地方に彼のいることは耳にしていたし、一度か二度は原野への小道でその長身を目にしたこともあった。
ドクター・スタンデールは我々に接近してこなかったし、我々も交際を求めようと思わなかった。博士がその人里離れた隠遁地区を愛しているのはよく知られていることだ。というのも、ブシャム・アライアンスの森に埋もれた小さなバンガローで、質素な必要品を自給しながら、旅と旅の合間のほとんどを過ごしていたからだ。
彼はここで、本と地図に囲まれた、隣人たちとのつきあいのない完全に独立した生活を送っていた。
だから、彼が熱心な声で、ホームズにこの謎に満ちた事件の推理に進展があったかどうか尋ねるのを聞いたときは驚かされた。
「この地方の警察はまったくあてにならない」と、スタンデール。「だけど、あんたなら、幅広い経験から何かを感じないか? 
秘密を打ち明けて欲しいと言うのは、何度もここで滞在しているうちに、トリジェニス一家とかなり親しくするようになったからで――実際に、俺のコーンワルの母方からすると、従兄弟と呼べるんだが――彼らの奇怪な運命を聞いたときは、非常にショックを受けたよ。
ああ。アフリカに行く途中プリマスまで着いていたんだが、今朝になってニュースを聞いたから、調査に協力しようとまっすぐ帰ってきたんだ」
ホームズは眉を釣り上げた。
「それではその船を諦めたのですか?」
「次の便に乗るさ」
「ほう! それがいかにも友情関係というものです」
「親戚関係だと言っておくよ」
「確かにそう――母方の従兄弟さんですね。お荷物は船に乗せてきたのですか?」
「一部はね。大部分はホテルに置いてきた」
「なるほど。ですが、この事件はきっとプリマスの朝刊に間にあわなかったのでは」
「そうとも。電報で受け取った」
「どなたからか、お聞きしてもよいですか?」
探険家のやつれた顔に影がさした。
「あんたもやたらと知りたがる人だな、ミスター・ホームズ」
「それが私の仕事でしてね」
ドクター・スタンデールは、何とか乱れた心に落ち着きを取り戻した。
「まあいいさ、教えよう」と、探険家は言った。
「ミスター・ラウンドヘイ、ここの教区牧師だよ、俺を呼び戻す電報を送ってきたのは」
「恐縮です」と、ホームズ。
「最初の質問にお答えしておきましょう。この事件の要点については、完全には私の中で整理がついていませんが、何らかの結論にいたる確かな見こみはあります。
これ以上のことを言うにはまだ早すぎますね」
「たぶん、あんたがどの方面を疑っているのか、聞かせてもらってもいいと思うが」
「いいえ、お答えしかねます」
「時間の無駄だった。長居する必要はなさそうだな」
この有名なドクターは、我々のコテージからたいへん不機嫌そうに大股で出ていった。5分もしないうちに、ホームズが彼の後を追った。
それから夕方まで姿を見ることはなかったが、やつれた顔に、ゆっくりとした足取りで帰ってきたところを見ると、調査にはたいした進展がなかったに違いない。
ホームズは、届いていた電報を一目見ると暖炉の中に放りこんだ。
「プリマスのホテルからだよ、ワトスン」と、彼は言った。
「ラウンドヘイ牧師から名前を聞きだして、ドクター・レオン・スタンデールの説明が真実かどうか確認するように電報を打ったんだ。
昨晩、確かに彼はプリマスで過ごし、実際に、ここで調査に居合わせている間に、荷物の一部をアフリカに送り出す手続きを取っているよ。
ワトスン、これをどう理解する?」
「彼の興味に深く関わっている」
「深く関わっている――そうとも。そこにまだ僕らが掴んでいない糸口があって、そこからもつれた問題をくぐり抜けられるかもしれない。
がんばろう、ワトスン。まだすべての材料が手元にきているわけでは断じてないからね。
材料が集まれば、我々にのしかかっている難題はすぐに解決するだろう」
ホームズの言葉は、きわめて奇妙で不吉な出来事という形ですぐに実現し、調査の新たな方向が開かれた。その中身もタイミングも、私には思いもよらないものだった。
その朝、自室の窓に向かって髭を剃っていると、蹄の音が聞こえてきたので私は顔を上げた。すると、二輪馬車がここへ下る道を疾走してきている。
ラウンドヘイ牧師が、コテージの扉の前で馬車を止めて飛び降り、庭の小道を駆け上ってきた。
ホームズはすでに服装を整えていた。我々は、彼に会うべく急いで外に出た。
この客人はかなり興奮していたのでほとんど言葉を口にすることができなかったが、やがて、あえぎながらその身に降りかかった悲劇的な物語をまくしたて始めた。
「我々は悪魔にとりつかれましたよ、ミスター・ホームズ! 哀れにも、この教区は悪魔にとりつかれています!」と、彼は叫んだ。「サタンそのものがこの地に解き放たれたのです! 
我々はサタンの手のひらに乗せられてしまったのです!」
などと叫びながら、動揺のあまり踊りまわった。滑稽なものだったろう、もし青白い表情や落ち着きのない瞳がなかったならば。
ようやく、彼はその惨たらしいニュースを放った。
「ミスター・モーティマー・トリジェニスが昨晩のうちに亡くなったのです。しかも、ご兄弟とまったく同じ症状で」
ホームズは、それを聞いた瞬間、全身に力をみなぎらせた。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha
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