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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Three Students 三人の学生 10

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「青年は手袋を椅子に置き、校正刷りを一枚ずつ手にとって写し始める。
当人の考えでは、講師は正面玄関から戻ってくるから、姿が見えるはずだった。
ところがご承知の通り、勝手口から帰ってきた。
いきなり扉そのものから物音がしたのだ。
もう逃げられない。
手袋は忘れたが、靴をつかんで寝室へ駆け込む。
お気づきになった机の傷、一方が浅く、寝室の方向に深くなっていましたね。
至極判然、靴がその方向へ引かれ、犯人はそこへ隠れたのです。
靴底の金具についていた土が机の上に残され、また一度こぼれて寝室に落ちる。
さらに付け加えるなら、今朝僕は運動場へ出向いて、黒い泥が幅跳びに使う着地場に使われていると確かめ、標本を、選手の滑り止めにまかれた皮殻かわがら・大鋸屑おがくずとともに取り上げました。
僕の話に間違いはないか、ギルクリストくん?」
 その学生は背筋を伸ばしていた。
「はい、その通りです。」
「なんですと! 何か言うことは?」とソウムズの大声。
「あるにはありますが、自分のやった恥ずかしいことを暴かれては、どう言ったものか。
ここに手紙があります、ソウムズ先生、今朝早くに渡そうと夜も眠れずに書いたものです。
罪がばれたと知るより前に。どうぞ。
ご覧になればわかりますが、こう記しました。『ぼくは試験に出ないと心に決めました。
ローデシア警察に招かれておりまして、すぐにでも南アフリカへ行くつもりです。』」
「実に嬉しいよ、君が不正で人を出し抜くつもりがないとわかって。」とソウムズ。
「だがどうして心変わりを?」
 ギルクリストはバニスタを指し示す。
「ぼくを正しい道に戻してくれた男がいるのです。」
「さあこっちへ、バニスタ。」とホームズ。
「もうわかっているね、さきほど言ったように、君だけがこの青年を逃がせたのだ。何より君はこの部屋に残され、出て行く際、扉に鍵を掛けたに違いない。
とはいえ窓から彼が抜け出たとも思えない。
この最後の謎を明らかにしてくれないだろうか。その行動の理由とともに。」
「ごく簡単なことでございます、気づきさえすれば。ですがあなたさまの頭脳をもってしても、おわかりにはならなかったのですね。
かつて、わたくしめはなつかしきギルクリストさま、この若さまのお父上の執事でございました。
旦那さまは落ちぶれ、わたくしめは使用人としてこの学寮に参りましたが、たとい零落したからといって、かつての雇い主のことは片時も忘れたことがございません
。わたくしめは、かつてのよしみでできうる限りこのご子息を見守っておりました。
ところが昨日この部屋に入ったとき、つまり呼び出されたときでございますが、初めに目に入ってきたのが椅子に置かれたギルクリストさまの革手袋で。
その手袋には見覚えがございまして、その意味するところも理解致しました。
ソウムズさまが見つけたらすべてはおしまいでございます。
わたくしめはあの椅子に座り込み、ソウムズさまがあなたさまの元へ向かうまで、ぴくりとも動きませんでした。
そのあと不憫な若さまが出ていらっしゃいましたので、わたくしめがひざまづいてすがりますと、すべてを白状してくださいました。
若さまをお助けすることは、道理に反することでございましょうか。亡きお父上に代わって、そのような行為で人を出し抜いてはいけないと、お諭し申し上げることが、理にかなわぬことなのでしょうか? 
それでもお咎めになりますか!」
「するわけがない。」とホームズは暖かい声をかけ、勢いよく立ち上がる。
「さてソウムズ、これであなたのささやかな問題も晴れたかと。我々も朝食がうちで待っております。
行こう、ワトソン! さて青年、君についても明るい未来がローデシアで待っていると信じている。
一度は落ちた男が、将来どんな高みに上り詰めるか、我らに見せつけるがいい。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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