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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Three Students 三人の学生 9

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 あわれ青年は立っていられなくなり、バニスタに恐れ責めるような視線を投げかける。
「いえ、ギルクリストさま、わたくしめは一言も――何も申し上げては!」と使用人は声を張る。
「何も。今に至るまではね。」とホームズ。
「さて、このバニスタの発言があっては、もうご自分に逃げ場はないとおわかりでしょう。残る道は、素直に白状するしかないということも。」
 少しのあいだ、ギルクリストは手を上げて、苦悶の顔を元に戻そうとした。
しかし次の瞬間には机のわきに身を投げ出し、膝をついて、顔を両手に埋めながら、堰を切ったように嗚咽し始める。
「よしたまえ。」とホームズの優しげな声。「人は過つもの、少なくとも君を人でなしの罪人と責め立てる者はここにいない。
僕からソウムズさんに事の次第を話した方が、君は気が楽かもしれない。僕が間違っていたら口を挟んでくれればいい。
それでよろしいかな? よし、よし、答えるまでもない。
聞いてなさい、悪いようにはしない。
 あのときより――ソウムズさん、あなたが僕に、問題がこの部屋にあるとは誰も、バニスタでさえもわからなかったはずだ、とおっしゃってはじめて、この事件が僕の頭のなかではっきりとした形を取り始めたのです。
もちろん印刷屋は論外です。
目を通るのなら自分の店でやればいい。
インド人も考えなくていい。
校正刷りが巻いてあったのなら、おそらく何かわからなかったはずです。
他方で、ある人物があろうことか部屋に立ち入ってしまい、そしてその日に限ってたまたま問題が机の上にあった、こんな偶然も考えられない。
よって論外です。
立ち入った人物は、そこに問題があると知っていた。どうしてわかったか。
 僕はこの部屋に近づいて、窓を調べた。
そのときあなたは愉快な勘違いをなさった。白昼、向かいの部屋の目があるなか、堂々と窓から押し入った、と僕が考えているとでも思ったのですね。
そんな馬鹿々々しい。
僕は測っていたのです、通りがかった際、中央の机にある紙が何かわかるためには、どれだけの背丈があればいいのかと。
六フィートの僕がやっとできる程度、
それ以下では無理も無理。
もうおわかりでしょう、こう考えられるのです、三人の学生のうちの一等背の高い者、その人物こそ三人のうち最も目をつけてしかるべき相手だと。
 部屋に入った僕は、窓際の小机について思うことをお話しました。
中央の机について何かわかりだしたのは、あなたがギルクリストに触れて、幅跳びの選手だと述べてからです。
そこで全容がぱっと見えてきて、あとは確証となるものがあればよいから、さっとつかんだわけです。
 事の次第はこう――この青年は午後を運動場で過ごし、そこで幅跳びの練習をした。
帰るときには競技用の靴を持っていたわけだが、ご存じの通り靴底には尖った金具がいくつか備わっている。
そしてこの部屋の窓を通りがかった際、背が高いために机の上の校正刷りが目に入り、何であるか思い当たった。
そうでなければ問題は起こらなかったのだが、部屋の扉の横を通るときに、使用人の不注意で鍵が挿さったままになっていると気がついた。
ふと出来心に襲われる。なかに入って本当に校正刷りか確かめろと。
その行いに危険はない。質問しようとのぞいてみた、そんなふうにいつでも誤魔化せる。
 さて、確かにそれが校正刷りそのものとわかったその刹那。彼は誘惑に屈した。
靴を机の上に置き、
そのあと窓際のあの椅子に何かを置いた、何だ?」
「手袋です。」と青年が言う。
 ホームズはバニスタにすべてが決したと目で伝える。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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