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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Three Students 三人の学生 2

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「すぐ思いついたのは、あろうことかバニスタが問題を勝手に見てしまったのではということで。
とはいえ当人は真面目な顔で否定致しますし、わたくしとて嘘でないと心底より思い。
となると残るは、通りすがりの何者かが戸に挿しっぱなしの鍵を認め、わたくしが不在と知るや忍び込んで問題をのぞいたことに。
大金がかかっております。奨学金はたいへん高額、不届者なら学友を出し抜こうと危険を冒してもおかしくありません。
 バニスタはこの件で気がすっかり動転、
問題の荒らされた疑い濃厚とわかるや卒倒寸前。
ブランデイを一口やり、椅子で休ませ、その間わたくし部屋をくまなく調べてみました。
すぐ気づいたのは、侵入者が紙の皺の他にも存在の痕跡を残していることで。
同じくそこに折れた芯の先がころん。
どう見ても悪たれが大慌てで問題を写していて鉛筆が折れたがため、なんとか尖らせようとしたということで。」
「お見事!」とホームズは機嫌を取り戻し、事件のことが気になりだした様子。
「運は君に味方している。」
「こればかりではなく。
わたくし、いい赤革張りの書き物机を新調しまして、
誓って申し上げて、バニスタも請け合いましょうが、ずっと毛羽も汚れもございません。
だのに今見ると三インチほどの真新しい傷が――ただの傷でなく間違いなく切られたものですよ。
それどころか卓上に黒い塊、小さな泥玉があって、そこに大鋸屑おかくずのようなものがぽつぽつと。
きっと問題を荒らした輩の残したものやと。
ただ何者か特定できる足跡その他証拠はなし、
考えあぐねた末、ふと妙案が浮かび。あなた様がこの町にいらっしゃる、とこの件をあなた様の手に委ねんとそのままこの足で参った次第。
どうかご助力を、ホームズ先生、窮地なのです。
そやつを見つけねば、試験はあらためて問題の用意ができるまで延期せざるをえず、そうとなれば説明も不可欠、きっと恐ろしい不祥事となり、果てはこの学寮にとどまらず大学全体に影を落とすことに。
何事にもましてこの一件は表沙汰にならぬようご配慮いただければと。」
「喜んで調査の上、できる限りのご助言を差し上げましょう。」とホームズは立ち上がり、外套を羽織る。
「この事件、まったく面白味がないわけでもない。
問題の届いたのち、どなたかお部屋へお訪ねに?」
「ええ、ダウラト・ラースという青年が。同じ棟に住まうインド人の学生で、試験について細々と質問を。」
「部屋には立ち入らせた?」
「ええ。」
「すると机の上に問題が?」
「丸めてあったと、記憶を。」
「ただ校正刷りと悟られたおそれも。」
「ことによると。」
「他に部屋へ誰か?」
「いえ誰も。」
「どなたか校正刷りがそこにあると知っていた人物は?」
「印刷屋以外誰も。」
「ではバニスタなる人物も知らない?」
「ええ、それこそ誰も。」
「当人はいまどこに。」
「具合を悪くして、かわいそうに、
椅子に休ませたまま出てきたので。
大急ぎで参ったものですから。」
「戸を開けたまま?」
「問題は真っ先にしまいましたよ。」
「そうしてここに至る。ソウムズさん、インド人学生がその巻紙を校正刷りと気づかなかったとすれば、手を出した男はそこにあると知らず、たまたま来たことになります。」
「そうなりますね。」
 ホームズはなぜかここで微笑む。
「さて参りましょう。
君好みではないね、ワトソン――物でなく心の問題だ。
よろしい、来るかは任せる。
ではソウムズさん――案内の方を!」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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