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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Three Students 三人の学生 3

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 依頼人の居間についた細長い格子窓が、玄関とともにこの歴史ある学寮の苔むす方庭はこにわへ面していた。
ゴシック様式迫持造りの戸口には擦り切れた石段があり、
入ると一階にその講師の居室があるという形だ。
玄関を同じくする棟の上には一階ひとかいにひとりずつ、三人の学生がいる。
現場へ着いた時分には、もうあたりは夕闇に包まれていた。
ホームズは立ち止まり、窓をまんじりとにらむ。
それから近寄り、つま先立ちで首を伸ばし、室内をのぞき込んだ。
「そやつはこっちの戸から立ち入ったに違いありません。
窓ひとつある以外、入口はございませんし。」と案内していた講師が言う。
「なんと!」とホームズは妙な笑みを浮かべて、依頼人に流し目を送る。
「ふむ、ここで得られるものがないなら、なかへ入るが賢明か。」
 講師は表扉の鍵を外し、我々をなかへと招き入れる。
我々は部屋の入口で立ち止まり、そのあいだホームズが絨毯を調べ始める。
「おそらくここには何もないでしょう。」と友人。
「かくも日差しが強くては、何も期待できない。
使用人もすっかり気を取り戻したようで。
お話では椅子に休ませたとのことですが、どの椅子で?」
「窓際のそれです。」
「なるほど。この小机のそば。
もう入っても結構。
この小机から始めましょう。
もちろん事の次第は実に明らか。
男が忍び込み、中央の机から紙を一枚ずつ手に取った。
そしてこの窓際の机まで持ってきた。ここからなら、あなたが中庭をやってきてもわかる上、逃げおおせもする。」
「ただ実際はそうでなく。」とソウムズ。「わたくしが入ってきたのは勝手口でして。」
「うむ、結構! だがとにかくその者の念頭にはあった。
当の三枚を見せていただきたい。
指紋はなし――なしか! 
ふむ、この一枚をまず持っていき、写した。
手にとってやりおえるまでの時間は、あらゆる縮約形を用いたとして
……少なくとも一五分。
そのあと放り落として次をつかむ。
そのさなかにあなたが戻ってきたため大慌てで逃げ出した――大慌てで。問題を元に戻すひまもなく、それで誰かがいたとあなたに知られるわけですが、
裏から建物に入るとき、玄関の石段を駆け降りる足音には気づかず?」
「そう、ですね。」
「ふむ。その者はあらん限りの力で書いたため鉛筆を折り、あなたの考え通り、再度尖らせる羽目になった。
この点は興味深いね、ワトソン。
その鉛筆はありふれたものではなかった。
よくある寸法よりも大きく、芯は柔らかく、表面の色は紺、製造者の名は銀の刻印で、残りは一インチ半ほどしかない。
このような鉛筆を探すのです、ソウムズさん、さすれば目的の者は捕らえられます。
一言付け加えると、その者はひどくなまくらな小振りの刃物を持っています。ご参考まで。」
 ソウムズ氏は一挙に多くのことを知らされ、いくぶん気圧されてしまっていた。
「まあ、あらかたついてはゆけますが、正直、長さの件だけは――」
 と、ここでホームズの差し出したる小さな木切れ。NNという文字のあと、木片には何も刻まれていない空白があった。
「どうです?」
「とおっしゃられましても――」
「ワトソン、君に対する今までの扱いは間違っていた。
他にもいたのだな。
さてこのNNは何がありえるか。
単語の末尾ではある。
ご存じ、ヨハン・ファーバーは最も知られた製造者の名だ。
では明らかではないか。通常そのヨハンという文字のあとに続く分だけの鉛筆しか残っていないのだと。」
と友人は小机を電灯の前へ持ってくる。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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