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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Three Students 三人の学生 4

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「書き付けた紙が薄かったのなら、きっと何らかの跡なりがこの研磨面にできるはず。
なし、何もなしだ。
これ以上得るものはないと見える。
さて中央の机だ。
この小さな塊が、見たところ君の話した黒い泥玉と。
形はどこか角錐のようであり、なかは空洞らしく、
おっしゃった通り大鋸屑が混じっているようで。
なんと、いとおもしろきもの。
そしてこの傷――きっと裂かれたものだ。
入りは浅く、抜けがぎざぎざの穴に。
ありがとう、ソウムズさん、おかげさまでこの事件に目を向けることができました。
ところでその扉の先には何が?」
「わたくしの寝室が。」
「事件以後立ち入ったりは?」
「いえ、まっすぐあなたの元へ。」
「ひとつ見て回りたく。
なんと古風で素敵な部屋! 
しばしお待ちいただけると幸い、床を調べ終わるまで。
なし、何もなし。
その窓掛けはどうか。
裏に衣服がかけてあるとして、
何者かがこの部屋に潜まざるをえないなら、そこしかない。なにぶん寝台は低すぎ衣装戸棚は狭すぎる。
誰もいないとは限らないわけだが!」
 ホームズが窓掛けを引く瞬間、私は息をのむ。その仕草には緊張感があり、万一に備えているとわかったからだ。
実際には、引かれた窓掛けが何をあらわにするでもなく、並んだ掛け釘から三、四着の上下がぶら下がっているだけ。
そしてホームズは立ち去る途中で、ふと床に身をかがめる。
「ほお! これは何だ。」と友人。
 それは小さな黒い泥の塊、書斎の机にあったものとそっくりであった。
ホームズは手のひらに載せ、電灯の光にかざす。
「侵入者は居間ばかりか寝室にも跡を残していったようです、ソウムズさん。」
「何のためにそんなところへ。」
「それは至極明らかかと。
あなたが予想外のところから戻ってきたため、部屋の扉前まで気づかなかった。
できたことは? 
足の着くものをみなひっつかみ、寝室に駆け込んで身を隠すことです。」
「そんな、ホームズ先生、ではこうおっしゃると。わたくしがバニスタとこの部屋でしゃべっているあいだずっと、そやつは気づきさえすれば捕まえられるところにいたと。」
「そう踏んでいます。」
「こ、こんなふうにも考えられますよ、ホームズ先生。
寝室の窓をご覧になったかどうかはわかりませんが……」
「鉛製の格子窓で硝子入り。三つ並んで蝶番で動くものがひとつ、人ひとりなら何とかなる大きさでした。」
「その通りで。面しているのは中庭の奥なのでよくは見えません。
そやつはそこから忍び込み、寝室を通り抜けたから跡が残ったのであって、最後に開け放しの扉から出たとも……」
 我慢できずにホームズが首を振る。
「現実的に考えましょう。
確かこうおっしゃった。この玄関を使う学生は三人いると。普段からあなたの部屋の扉の前を通るのですね?」
「ええ、そうですね。」
「そして全員、この試験を受ける?」
「ええ。」
「そのうちひとりを、特別に疑ってみることは?」
 ソウムズは戸惑っていた。
「たいへん微妙な問題で。
ふつう証拠もないのに人を怪しみたくなどないでしょう。」
「まずはその怪しいと思うことを。証拠の方は僕の仕事です。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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