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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Five Orange Pips オレンジの種五つ 3

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
探しに出てみますと、庭の外れにある青味泥の浮く小池にうつぶせで見つかって。
争った形跡はなく、池の水もわずか六〇センチの深さなのですから、平時の錯乱を鑑みて陪審は自殺という評決をしました。
どうもぼくには、むしろ伯父が死を頭から振り払おうとしているように見えていたので、わざわざ自分からやっただなんて、おいそれとは納得できかねます。
ともかく事が過ぎ、ぼくの父があとの屋敷と銀行口座の一万四〇〇〇ポンドほどを受け継ぎました。」
「ここでひとつ。」とホームズは言葉を差し挟む。「君の話は、耳にしたなかでは極めて稀な部類に入るものと見えます。
確認ですが、君の伯父上が手紙を受け取った日と、その自殺と思われる日は?」
「手紙の着いたのが一八八三年三月一〇日。
死んだのがそれから七週後の五月二日の夜でした。」
「どうも。先をどうぞ。」
「で、父がホーシャムの地所を相続したとき、ぼくが頼んで例の開かずの屋根裏を詳しく調べてもらいました。
そこに見つかったのは真鍮箱がひとつ、でも中は処分されてまして。
その蓋の内側に張り紙があって、またもや大文字でKKK、その下に『手紙・控え・受取・一覧』とあります。
つまりオープンショウ大佐に処分された書類とはそういう類のものだったのだとぼくたちは考えました。
あとは屋根裏に別段これといったものはなく、ただアメリカ生活中の書類とか日記とかが雑多にあるだけ。
なかには戦争当時のものもあって、伯父が軍務を果たし、勇敢な兵との評判だったことが伺えました。
他にも南部諸州再建時代のものもあり、大半が政治がらみのもので、その節、伯父は北部諸州から来たいわゆるお渡りの政治家に真っ向表に立って反対したそうです。
 で父がホーシャムの館に住みだしたのは、八四年の初めからですが、翌八五年の一月まで何事もなく幸せでした。
新年の四日目です、一緒に朝の食卓に着くと父がわっと驚きの声を発しました。
見ると父は片方の手に、開けたばかりの封筒を持ち、もう片方の突き出した手のひらの上に、干からびた種が五粒。
父はいつも大佐のことをぼくの作り話と茶化していたのですが、今度同じ事が自分の身の上に落ちたので、度肝を抜かれ途方に暮れた様子で。
『いったいこれはどうしたことだ、ジョン。』と父は口ごもりました。
 僕の心も重くなってしまい、ただ『KKKです。』と。
 父は封筒の内側を見て、『なるほど』と声を張り、
『ここにその文字があるが、その上にも何か書いてあるな。』
『書類を日時計に置け。』とぼくは父の肩越しに読みました。
『書類とは何だ。日時計?』と父も訝ります。
『庭の日時計です。他にありません。書類はきっと、あの処分されたやつですよ。』とぼくは答えました。
『馬鹿な。』と父は心を猛らせ、
『ここは文明国じゃないか。こんなくだらない冗談があるか。
どこからこんなものを寄越した?』
『ダンディからです。』とぼくは消印に目を向けて答えます。
『たちの悪い非常識な悪戯だ。
日時計に、書類、知ったことか。そんな馬鹿馬鹿しいものに取り合ってられん。』
『こうなったらぼくが警察に。』
『挙げ句笑われるが落ちだ。とんでもない。』
『行くのはぼくです。』
『いいや、ならん。こんな馬鹿げたことで騒ぐなど。』
 父はなかなか頑固者ですから、どう言っても無駄で。
が、どうもぼくには胸が騒ぐのです。
 この手紙が来て三日目に父は旧友を訪問するといって出かけました。今ポーツダウン丘陵ヒルの砦で司令官をやっているフリーボディ少佐です。
ぼくも父が家から離れていさえすれば危険も遠ざかるものと思いまして、ほっとしていました。
ところがそれが間違いです。
父は近隣にいくつもある白亜坑の底に墜落し、頭蓋骨を砕いて意識不明。
父の元へ駆けつけましたが、意識を取り戻すことなく亡くなりました。
どうやら父はフェアラムからの帰り、土地勘ない薄闇の田舎道で、白亜坑には囲いがなかったものですから、陪審はためらわず『事故死』の評決を。
ぼくも死の事実関係をよくよく調べてみましたが、他殺をほのめかすようなものは何も見つかりません。
争った形跡も、足跡もなく、強盗の線もなく、不審者の目撃証言もなし。
ところが言うまでもなくぼくの心はいよいよ不安で、父にも何か悪巧みが巡らしてあったと、確信にも近い思いがありました。
 こういう剣呑な調子で財産はぼくの手に。
なにゆえそれを売却しないかって先生はおっしゃるかもしれません。
それの答えとしては、ぼくは今回の禍根はどこか伯父の身の上にあって、所詮家を換えても危険は迫ってくるものと強く思うからなのです。
 父が非業の死を遂げたのが八五年の一月ですが、それから二年八ヶ月経ちました。
このあいだぼくはホーシャムの館で平穏に過ごしましたから、災いは一族から去ったものと、先代きりになったと思えて参りました。
ところが安心するのはまだ早かったのです。昨日、父とまったく同じ形で襲ってきました。」
 青年は胴衣から皺だらけの封筒を取り出し、卓へ向いて五粒の干からびた橙の種をふるい落とした。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Asatori Kato, Yu Okubo
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