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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険
The Five Orange Pips オレンジの種五つ 4
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
なかには前に父へ寄越したのと同じくKKKの文字、それに『書類を日時計に置け』。」
「実を申しますと、」――と青年は顔をしなやかな白い手に埋うずめ――
「為す術がないのです。今の心境は、さながらうねる大蛇おろちに迫られた哀れな野兎。
抗えぬ冷酷な悪魔に掴みかかられては、どう構えても備えても防ぎきれないように思えまして。」
「ちっちっ。」とシャーロック・ホームズは舌を鳴らす。
どうも警察はこう受け取ったみたいです。手紙はたちの悪い悪戯、親類の死は陪審の通りまったくの偶然、手紙と何らの関係もないはずだ、と。」
「しかしひとりの警官をつけて館に常駐してくれてます。」
「どうして僕のところに来た。」と大声。「いや何より、なぜすぐ僕のところへ来なかった。」
ようやく今日になってプレンダギャスト少佐に悩みを打ち明けると、先生の元にと勧められて。」
話はこれで全部か。今僕らに話した分で――助けになりそうなことはもう?」
とジョン・オープンショウは上着の懐を掻き探り、褪せて青みがかった紙を一枚出して卓上に置いた。
「思い出したのですが、前に伯父が書類を燃やしたとき、灰のなかの焼け残しの切れ端が、この紙とまったく同じ色で。
この一枚は伯父の部屋の床にあったのを見つけたのですが、これは他の書類からひらり抜け落ちて、そのまま処分を免れたものかなと思えてきまして。
ホームズは灯りを動かし、ふたりでその紙へかがみ込むと、どうやら一冊から裂いたらしく、端がぎざぎざになっていた。
頭の日付は「一八六九年三月」、その下に次の謎めいた覚書があった。
七日 マコーリー、パラモア、セントーガスティン在のジョン・スウェインに種を宛てる
「かたじけない。」とホームズはその紙をたたみ、依頼人に返してやり、
話してくれたことを論じている暇もない。ただちに帰って動くことだ。」
今見せたその紙をくだんの真鍮箱のなかに入れることだ。
ほかの書類はみな伯父が焼き、残っているのはこれ一枚きりだという言伝も箱に入れておくこと。
済んだらその箱を指定通りの日時計に出しておくこと。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Asatori Kato, Yu Okubo