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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Five Orange Pips オレンジの種五つ 5

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「今は復讐、それに類する考えは抱かぬよう。
いずれ法によって為し得よう。とにかくこちらも策を講じるのだ。向こうはすでに講じているのだから。
第一に考えるのは君を脅かす目前の危険を取り除くこと。
謎を明らかにして悪の一味を罰するのは二の次だ。」
「感謝します。」と青年は立ち上がって、外套を着ながら、
「先生のおかげで新しい希望と生命とが漲って参りました。
ご指示の通りに致します。」
「一刻も猶予せぬよう。
まずそれまでは自分の身を用心したまえ。思うに、本物の恐ろしい危険が君に差し迫っていることは間違いない。
帰りは何で?」
「ウォータルーから汽車で。」
「九時まで時間がある。
表に人通りはあるから、安全だろうとは思う。
だが用心に越したことはない。」
「ここに護身用が。」
「結構。こちらも君の件に取りかかるつもりだ。」
「ではホーシャムの館にお出で下さると?」
「いや、真相はロンドンにある。
探るべくはそこだ。」
「ではぼくは一両日中にその真鍮箱と紙との成り行きをご報告に参ります。
みなご指示通りに致しますので。」
と青年は我らと握手を交わして去った。
外には風がなお吹きすさび、窓を叩く雨が繁る。
この摩訶不思議な物語が荒れる天候から現れ出たかのよう――大時化の際の藻草が一面に押し寄せるがごとくで――そして今再び同じく退いていったかのよう。
 シャーロック・ホームズは静かに椅子で前へうなだれ、炎の赤い光に目を向けていた。
やがてパイプに火を点じ、後ろに寄りかかって紫煙の輪を眺めていると、互いに追いつ追われつ天井裏に這い上ってゆく。
「思うにワトソン。」ととうとう口を切った。「これまでの事件のうちこれほど奇抜なのはまずない。」
「まあ四人の誓いを措いては。」
「そうだな。まあそれを措いては。
ところが僕からすればこのジョン・オープンショウの方があのショールトオ兄弟以上にはるか危険の道を辿りつつある。」
「だが君はもう、」と私。「その危険が何なのか、頭ではしっかり掴んでるんだろう?」
「核の部分に疑問はありえぬよ。」と友人は事も無げだ。
「なら何かね。
このKKKとは何者で、あの不幸な一家を狙うのは何のためだ?」
 シャーロック・ホームズは目を閉じ、肘を椅子に掛け、指先を合わせ、
「つまり理想的な推理では、」と説明を始める。「ひとたび全容の一端を見せられると、それから演繹してそこへ至る一連の出来事ばかりか、あとに続く結果みなまでわかるものだ。
ちょうどキュヴィエが骨一本の検討から動物の全身像を正しく描けるのと同様、観察する者は、ひとつながりの出来事の一環さえ完全にわかれば、前後含めたすべての輪を狂いなく言い当てることができよう。
我々はまだ結論を掴んでいないが、それは推理のみが到達できるもの。
問題は書斎でも解決できうるのだ、それが感覚の力に任せて解答を求める人々を挫かせているものでもあってもね。
ところがこの技を極限まで発揮しようとするには、知り得る限りのあらゆる事実を推理の際に利用できねばならない。つまりこれは、たやすく分かると思うが、ありとある知識の所有を意味する。このことは、現代の無償教育・百科事典においてさえ、いくぶん稀にしか為しえない。
とはいえ人がその仕事に役立ちそうな知識だけを一通り有しておくのは、さほど無理なことでもない。僕にしたところでそちらを心がけている。
僕の記憶が確かなら、仲良くなり始めの頃、僕の能力値をはっきり定めて書き立てたことがあったね。」
「ああ。」と私は笑いながら答えた。
「おかしな書き物だったな。
哲学・天文・政治揃って零点、とね。
植物は物により、地学は街から八〇キロメートル以内のあらゆる地域の泥汚れに限って該博。化学は偏重、解剖は体系的でなく、怪奇事件と犯罪記録は及ぶものなし。ヴァイオリン弾き、拳闘家、フェンシングの手練れ、法律通、コカインと煙草の中毒者。
以上が我が分析の要点だったかな。」
 ホームズは最後の項目に苦笑したが、
「まあ、」と言って、「あのときと同じように言わせてもらうと、人間が頭脳という屋根裏の小部屋にいつも置いておかねばならぬのは、よく使う道具だけ、それ以外は書斎という物置に片づけておいて、入り用の際にそこへ取りに行けばいい。
さて、今夜僕らへ持ち出された事件のような場合は、まさしくあらゆる情報源をかき集めねば。
全米百科全書のKの巻を渡してくれたまえ。君のわきの本棚に入っている。
ありがとう。さて事態を考え、何が演繹で出てくるか見てみよう。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Asatori Kato, Yu Okubo
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