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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Red-Headed League 赤毛組合 10

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 シャーロック・ホームズが飛び出した。侵入者の襟首をすばやくつかむ。
もう一人は穴の中へ飛び込んだが、服の引き裂かれる音がした。ジョーンズが服の裾をつかんだようだ。
リヴォルヴァの銃身がきらめいた。ホームズの狩猟鞭が男の手首に振り下ろされた。拳銃が床の敷石に落ちた。がちゃりと音がする。
「無駄だ、ジョン・クレイ。」ホームズの穏やかな声。
「君に反撃の余地はない。」
「どうやらそうらしい。」相手は極めて冷静に答えた。
「だが、俺の仲間はうまく逃げおおせたようだ。服の端だけを貴様の手みやげにしてな。」
「表には三人の警官が待ちかまえている。」ホームズは告げた。
「おや、へぇ。貴様らにしてはよくやったもんだ。お褒めの言葉を掛けてやろう。」
「それをそっくり君に返そう。」ホームズは答える。
「君の赤毛組合、斬新で効果的だった。」
「お前もすぐ仲間に会わせてやるよ。」ジョーンズが横から口を挟む。
「あいつ、穴潜りにかけては俺よりもうまいようだな。
手を差し出せ、手錠をはめてやる。」
「貴様の不潔な手で、俺に触れてくれるな。」我々に包囲された犯人は言葉を吐き捨てたが、すぐに手錠をはめられた。
「貴様はしらんだろうが、俺の身体には王家の血が流れているんだ。
口を利くときには、そう、『どうぞ』とか『恐縮ですが』と言いたまえ。」
「わかった、わかった。」ジョーンズは目をひんむき、くすくす笑う。
「それではまことに恐縮ですが、上へおあがりください。馬車をつかまえ、殿下を警察署までご案内いたしましょう。」
「よろしい。」ジョン・クレイは落ち着き払って言った。
我々三人に尊大な会釈をしたのち、警官に身柄を確保され、静かに立ち去った。
 我々は警官の後について地下室を出た。そのとき、メリウェザー氏はこう言った。「ホームズさん、本当に、当銀行といたしましてはどうお礼を申し上げていいかわかりません。
事実、あなたさまにこんなに大胆な銀行強盗の計画を見破っていただき、なおかつ未然に防いでいただいたのですから。」
「僕には一つ二つ、借りがあったのです。ジョン・クレイに晴らさねばならぬ借りが。」と、ホームズは返答する。
「この事件には少々金を使いました。それは銀行の方で払っていただきましょう。しかし、それ以上の物は必要ありません。様々なものめずらしい体験。赤毛組合という突飛な話。それだけで、報酬は充分なのです。」
「いいかい、ワトソン。」ホームズは朝早い頃、ベイカー街の下宿でウィスキソーダを飲みながら説明するのだった。「初めから明々白々だった。赤毛組合の風変わりな広告。百科事典を筆写させる。この二つの目的は、あのひどく頭の悪い質屋の主人を、毎日何時間か家を留守にさせる、これしかない。
おかしな手だ。しかしこれ以上の案は思いつかないだろう。
考えたのは頭の切れるクレイのやつだ。共犯者の髪の色を見て思いついたに相違ない。
質屋をおびき出すのに、一週間四ポンド必要であったわけだが、何千ポンドの賭けをしているんだ、そのくらい造作もない。
そうやって広告を出し、一人は仮事務所を借りて、もう一人は質屋にけしかけて応募させる。二人して、毎朝確実に店を留守にさせた。
僕は店員が相場の半額で来ているという話をきいて、すぐにわかった。男にその立場を得なければならない強い動機があるのだ、と。」
「しかし、どうしてその動機がわかる?」
「その店に女でもいれば、つまらん色恋沙汰とでも疑っただろう。
あの質屋は小さい。あんな手の込んだ準備をしたり、それだけの金を出すほどではない。
そうすると、店の外にあるものに違いない。
では何だ。
ふと僕は思いだした。男は写真愛好家で、事に触れては地下室に姿を消している。
地下室だ! これでもつれた事件の糸口はほどけた。
僕は不思議な店員の身辺を探ってみた。すると相手は、ロンドン一、冷静沈着で大胆な悪党。
やつ、ジョン・クレイが地下室で何かしている。何ヶ月も、一日何時間も何かをしている。
何が出来るのか、と再び思案をめぐらせた。
僕は一つの結論に行き着いた。やつは他の建物に向かってトンネルを掘っている。
 二人で現場に行ったとき、僕はここまで推理していた。
あのとき、僕がステッキで歩道を叩いて、君を驚かせただろう? 
地下室からトンネルが店の前、後ろ、どちらに掘り進められているのか確かめたかった。
次にベルを鳴らすと、ベルに応え、望み通り店員が出てきた。
僕とやつは何度か小競り合いをしたことがある。だが互いに顔を合わせたことは一度もない。
だから顔なんて見なかった。
見たかったのはやつのひざ小僧だ。
君も覚えているだろう? やつのひざはすり切れ、しわだらけで、汚れていたことを。
何度も何度も穴を掘っていた証拠だ。
これで残る点は、何のために掘っているのか、のただ一つとなった。
僕は街角を回ってみて、理解した。シティ&サバーバン銀行が我が友人の質屋と背中合わせになっていると。これで事件は解決したというもの。
音楽会の後、君は馬車で家へ帰った。しかし僕はスコットランド・ヤードに寄り、次に銀行の頭取を訪ねた。その結果は君の見たとおりだ。」
「ふむ。それはやつらが連盟の事務所を閉めたからだ。つまりそれがジェイベス・ウィルソン氏が店にいても邪魔にならなくなったということだろう? 言い換えれば、トンネルを完成させたということだ。
完成した以上、すぐ計画を実行する必要があった。トンネルが発見されるやもしれない。金貨が別の場所に移される可能性もある。
それに、土曜日が他の日よりも都合がいい。逃げるのに二日の猶予がある。
こうして僕は、今夜襲撃があると見当をつけた。」
「快刀乱麻を断つ見事な推理だ。」私は心の底から感嘆した。
「長い長い鎖が、最初から最後まで正しくつながったよ。」
「おかげで、いい退屈《アンニュイ》しのぎができた。」ホームズはあくびをしながら答えた。
「ああ、もうそいつがやって来たようだ。
平々凡々とした生活から逃れようと、四六時中もがいている。これが僕の人生だ。
こうしたささやかな事件があると、いくらか救われた気持ちになる。」
「そうやって、君は赤毛だけでなく人々皆を救っている。」 私の発言に、
ホームズは肩をすくめた。
「結果として、少しは役に立っているのかもしれんな。
『本人などどうでもいい――やったことがすべてなのだ。』と、ギュスターヴ・フロウベールがジョルジュ・サンドに書き送っているように、ね。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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