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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Red-Headed League 赤毛組合 4

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「その事務所は二脚の木の椅子と松材の机の他には何もなく、その後ろにわしよりも赤い髪の小男が腰を下ろしていました。
そいつは人が入ってくると、志願者それぞれに二言、三言かつぶやいて、何とか粗を見つけては、不適の烙印《らくいん》を押しつけとるのです。
これでは資格を得るのはやはり、簡単とは言えそうにありませんでした。
ところが、わしらの番が回ってきたとき、小男は他のやつよりひどく好意的な目をわしに向けたんですわ。わしらが入ると、秘密の話をしようと扉を閉めたのです。
『ジェイベス・ウィルソンと申されます。』と、まごついていたわしを、スポールディングは横から口添えをしてくれました。『連盟の欠員を補いたいと希望されています。』
 相手はあれの言葉を聞くと、こう答えたんです。『まさに適任だ。
この方なら全ての条件を満たしている。
こんなにも燃えさかるような赤は……見たことがない。』って、
それから、その男は一歩後ずさり、首を傾げて、こっちが恥ずかしくなるほど髪をじっくり見るのです。
すると突然、つかつかと歩いてきて、両手を硬く握りしめてですね、合格おめでとうと熱烈に言うんですよ。
 それからその相手はですね、『ここで躊躇しては、申し訳が立ちません。』と何やら言い出しましてね、
『見え透いたことでも、確かめるまで念には念を入れて……失礼します。』と……! 
男はわしの髪を両手でつかんで、ぎゅう、と引っ張りおったんですわ。わしは思わず、あっ、と叫んでしまいましたよ。
すると男はですね、『ん、涙が出ましたね。』とか言って手を離したんですよ。
『これで問題ないわけですな。
だが、我々は気を付けなければならんのです。今まで、かつらで二度、染色で一度騙されたことがあるんです。
靴の縫糸用のロウ、そういったものを使った話もあるくらいで、人間の浅ましさにはあきれるばかりです。』
と弁解めいた言葉を言いながら男は窓の所へてくてくと行って、大きな声で、合格者は決まったぞ、のようなことを怒鳴ったんですわ。
そうしたら、がっかりした人たちのため息とかざわめきとかが下から聞こえてきて、人並みはぞろぞろっと散らばっていってですね、赤毛の人間といやぁ、わしとその審査員みたいなやつだけになっちまったんですよ。
 そこで男は改めて、『私の名は、ダンカン・ロスと申します。』と名乗ったわけでして。それから、こう言ったんです。『我々の気高い慈善者はわたしたちに基金を遺してくれましたが、私もその恩給を受けている者の一人です。
ウィルソンさん、あなた、配偶者はおありですか? 家族はおありですか?』
 そんなふうに聞かれたもんですから、わしは、どちらもいない、と答えたんですよ。
 すると男の顔がみるみる変わっていくんですわ。
『ああ、困った。』って深刻そうな顔をしてですね、『実に深刻な問題だ。とても残念です。
いやね、この基金というのは赤毛の一族を繁栄させ、種の保存をしていくことが目的なのです。
残念なことに……あなたが独身だとはね……』
 こんな言葉を聞いてですね、わしもがっかりしちまいましたよ、ホームズさん。やっぱり、そうやすやすと連盟員になんてなれるわけないってね。でも、でもですよ、男はしばらく考えてから、まぁいいでしょう、って言ったんですよ。
 男はそれからこう言うんです。『他の人なら、この点は致命的になりかねないのですが、このような素晴らしい髪を持った方のこと。ここは妥協して規則を曲げなければなりませんね。
では、いつ頃からこちらの仕事につけるのでしょうか?』
 そこで、わしはこう言ったんです。『……はぁ、ちょっと都合が悪いのです。店の方も……ありますもので。』
 するとですね、ヴィンセント・スポールディングが出てきてこう言ったんですわ。『え、ウィルソンの旦那、そんなこと気にするこたぁありませんよ。
店の面倒はあっしにだって出来ますから。』
 ですから、わしは次にこう聞きました。『勤務時間というのは、どのくらいのもんなんですかね?』
『十時から二時までです。』
 ところで、ホームズさん、質屋業ってのは大抵夕方が中心でさぁ、忙しいっていっても給料日前の木曜と金曜の夕方くらいなもんです。ですから、朝にちょっと稼ぎがあるだなんて願ってもないことだし、
その上、うちの店員はよくやってくれますからね、店をまかしておいても大丈夫ってわけです。
『それは好都合です。』って言いまして、次にこう聞いたんです。『で、給料の方は?』
『週給で、四ポンドです。』
『それなら、仕事の方は?』
『ほんの名ばかりのことですよ。』
『いやだから、その名ばかりの仕事というのは?』
『ああそうでしたね、時間内は事務所……いやせめてこの建物の中にいてもらわなければなりません。
もし持ち場を離れましたら、あなたは永久にその資格を剥奪されることになりますぞ。
遺言状にもその点ははっきりと明文化されています。
勤務時間中に一歩でも外にお出でになられたのなら、そこで即、資格剥奪ということになります。』
『一日四時間なんでしょう? 外に出ようなんて滅相もない。』 と言ったらですね、
ダンカン・ロスさんはびしっと言ってのけるんです。『いかなる理由も許しませんぞ。病気でも、用事があったも、また他のどんな理由であってもいけません。
ここに必ずいてください、さもないと首ですぞ。』
『それで、仕事といいますのは……?』
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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