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The Old Man and the Sea 32 老人と海


Ernest Miller Hemingway アーネスト・ヘミングウェイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
「みんなは俺を探してたのか?」
「もちろん。沿岸警備隊も、飛行機も出たよ」
「ばかでかい海に小さな船だ、見つけるのは難しい」老人は言った。
自分自身や海に話しかけるのではなく、目の前の相手と話せるのは、なんと嬉しいことだろうと彼は思った。
「会いたかったよ」彼は言った。「魚は何を獲った?」
「一日目に一匹。二日目も一匹で、三日目は二匹」
「立派なもんだ」
「今度はまた一緒に行こう」
「駄目だ。俺には運が無い。すっかり無くなったんだ」
「運なんて」少年は言った。「僕が持って行けばいいよ」
「お前の家族がどう言うかな」
「どう言ってもいいよ。昨日は二匹も釣れたんだ。でもまだ教わることがたくさんあるから、一緒に漁に行きたい」
「鋭くて強い槍を手に入れて、船に準備しておく必要があるな。
刃の部分は、古いフォードの板バネで作れる。グアナバコアに持って行って研磨すればいい。
尖ってなきゃいけないが、折れるようじゃ駄目だ。俺のナイフは折れたんだ」
「別のを見つけてくるよ。バネも研いでもらう。
このひどい風は、何日続くの?」
「三日くらいだな。もっとかもしれない」
「用意は全部やっておくよ」少年は言った。「サンチャゴは手を治して」
「手の治し方は分かってる。だが、夜中に変なものを吐き出して、胸の中がおかしくなったような気がしたんだ」
「それも治しておいて」少年は言った。「横になってなよ。後で綺麗なシャツを持ってくる。食べ物もね」
「俺のいない間の新聞を頼むよ」老人は言った。
「早く良くなって欲しいんだ。教わりたいことがたくさんあるんだよ。サンチャゴは何でも教えてくれるんだから。どのくらい辛かった?」
「並大抵じゃない」老人は言った。
「食べ物と新聞を持ってくるよ」少年は言った。「よく休んで。手に効くものも薬屋で見つけてくる」
「忘れずにぺドリコに伝えてくれ、頭はやるって」
「うん、必ず」
 少年は外へ出て、磨り減ったサンゴ岩の道を下って行った。彼はまた泣いていた。
 その日の午後、観光客の一団がテラスを訪れた。一人の女が海を眺めていると、ビールの空き缶やカマスの死骸が浮かぶ水面に、巨大な尾びれのついた長く白い背骨が揺られているのが見えた。入り江の外側では、東風が大きな波を立てている。
「あれは何?」女は給仕に問いかけ、巨大な魚の長い背骨を指差した。それはもはや、潮に流されるのを待つばかりの屑に過ぎなかった。
「ティブロンが」給仕はそう言ってから、訛った英語で言い直した。「サメが…」彼は事情を説明しようとしたのだった。
「知らなかった。サメの尻尾があんなに立派で、綺麗な形だなんて」
「俺もだよ」連れの男が言った。
 道を上った所にある小屋で、老人は再び眠っていた。
うつぶせのままだ。そばには少年が座り、彼を見守っている。
老人はライオンの夢を見ていた。
 
Copyright (C) Ernest Miller Hemingway, Kyo Ishinami
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