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The Story of William Wilson Part One(1) ウィリアム・ウィルソンの物語


The Story of William Wilson Part One ウィリアム・ウィルソンの物語
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
「アメリカの声」VOAが「やさしい英語」の番組をお届けします。
「やさしい英語」の朗読は、特にアメリカの口語英語の理解に役立つようにという意図で制作されたものです。
これらの朗読は、アメリカ人が集まり、仕事をし、おしゃべりをする際に、一番よく使われる1000語の単語で書いてあり、わかりやすく読んでいます。
きょうは、100年余り昔のアメリカの作家、エドガー・アラン・ポオが書いた小説を4部に分けたものの1回目を聞いていただきましょう。
『ウィリアム・ウィルソン』という小説です。
この小説は、1人の男が正邪の決断について自分自身と戦う物語、つまりある男の良心との戦いの物語です。
さしあたり、私自身のことをウィリアム・ウィルソンと呼ぶことにしておこう。
これは私の本名ではない。
私の本名は、今ではわが家の恐怖と怒りの種となっているのである。
私の悪名は、世のすみずみにまで風の便りに伝えられているではないか。
私はもう死んだも同様、この世には永遠に通用しない人間ではないか、この世の栄誉とか、人生の盛りとか、現世の輝く希望といったものに対して。
それに、厚く果てしない雲が、私の希望と天国との間に、永久に垂れこめているではないか。
人間というものは、悪くなる時は徐々に悪くなっていくものである。
ところが、私の場合は、まるでコートをするりと脱ぎ捨てたように、すべての善性を一瞬にして失ってしまったのである。
私は些細な悪事からひと跳びに、かつてない極悪非道の世界に飛び込んだのである。
どうしてそのようなことになったのか、その理由について、これから話すことをよく聞いていただきたい。
私はもうすぐ死ぬが、死期が近いということは、私の魂にとっては、今では安らぎとなっているのである。
この暗い谷間を歩みながらも、私は世人の理解を得たいと願っているのだ。
私がある点で、人間の力ではどうにもならないような力にもてあそばれていた、ということを信じてもらいたいのである。
これからお話しようとする物語の中で、私の行為がやむを得ないものであったことを証明する、ささやかな事実でも汲み取っていただければ、ありがたいと思うのである。
私の身に降りかかったようなことは、ほかの人には決して起こったことがない、という点を了解してほしいのである。
私ほどの苦痛を味わった人はいないのではないだろうか。
私は今まで、夢の中で生きてきたのではないだろうか。
私は今や恐怖と解き明かされることのない疑問、つまり、この世の幻影の中で最も得体のしれない神秘のために、犠牲となって死んでいくのではないだろうか。
私はおせっかいな気性の人間が多いことで知られている家門の一員である。
私も幼少のころから、すでにこの一族の気性を受け継いでいることは明らかだった。
この気性は年とともに強くなっていった。
いろんなことで友人間のうわさの種となり、このために自分でもたいへん損をした。
何事によらず、人が自分と同じようにしてくれないと私は気に入らなかったのである。私は手に負えない愚か者のように振る舞った。私は欲望の命じるままに行動した。
私の両親は心身ともにひよわであったので、私のこういった傾向を食い止めることはほとんどできなかった。
両親の努力も効を奏さなくなると、私のわがままな傾向は、言うまでもなく、ますます強くなっていった。
それ以来というものは、私の言うことは、そのままわが家の法律となったのである。
私は、ほとんどの子どもがまだ親の言うことに従わなければならないような年ごろに自分の欲望の赴くままに行動することが許された。
私は自分の行為の主宰者となったのである。
私は初めて上がった学校のことを今でも覚えている。
それはイングランドの小さな町にある300年ほどたった大きな建物の中にあって、そこは多くの大木に囲まれていた。
この町の家々はどれもひどく古びていた。
実のところ、この古い町には夢のような雰囲気が漂っていて、そこにいるだけで魂の安らぎを覚えるのであった。
私は今でも木陰の心地よい涼しさをありありと覚えているし、かぐわしい花々を思い出すこともできるし、1時間ごとに昼間の静けさを破って聞こえてくる教会の低い鐘の音がいまだに耳のどこかに残っていて、思い出すたびに何とも言えない喜びを覚えるのである。
今の私にとって、この学校の追憶ほど楽しいものはないと言ってもよい。
現在の私の生活は苦悩、それも、あまりにも生々しい苦悩に満ちているので、しばらくの間は苦しみを忘れてあの当時のことを語ることを許してもらえるだろう。
不吉な運命が自分の上に覆いかぶさっていることを初めて私が認識したのは、まさにあの当時あの場所においてであった。
だから、当時を回想することを許していただきたいのだ。
 
Reproduced by the courtesy of the Voice of America
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