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The Story of William Wilson Part One(2) ウィリアム・ウィルソンの物語
The Story of William Wilson Part One ウィリアム・ウィルソンの物語
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
我々少年たちの寄宿舎兼教室となっていた建物は、前にも言ったように、古びた大きな建物だった。
周りの校庭は広々としていて学校の周囲には高い塀がめぐらされていた。
私たちがこの塀の外へ出るのは週に3回で、1日は近くの野原へ散歩に出かける時で、あとの2回は日曜日に教会へ行くときだった。
村に1つだけある教会がそれで、私たちの学校の校長が教会の司祭を兼ねていたのである。
私は教会での彼の様子を何時も驚きと疑いのまなざしでながめていた。
普段とまるで違った、清潔な衣服をまとい、ゆるやかな足取りと物静かな思慮深い顔をしたこの男が、学則に従わない者は容赦なくぶつぞと言わんばかりの厳格な顔つきで、ひどく汚れた衣服を着たあの男と果たして同一人物なのだろうか。
これは私のような小さな頭ではどうしても判断がつかないほど大問題であり、不愉快な問題であった。
そこは木が1本も生えていなくて、地面は石のように硬かった。
建物の前には小さな庭があったが、ここへはごく特別の折にしか足を踏み入れることはなかった、つまり、初めて学校へ来た時とか、最後に学校を去る時とか、あるいは父母かその友人が数日の休みに引き取りに来てくれた時などである。
しかし、この建物!それは何とも楽しい古風な建物で、私にとってはまさに宮殿のようであった。
この建物は果てしなく、次から次へと部屋が続いていた。
私は自分が今1階にいるのか2階にいるのか、自信をもって言うことができないこともあったくらいだ。
一つの部屋から次の部屋へ行くには、必ず3、4段の段を、上がったり下りたりしなければならなかった。
いくつもの部屋が次から次へと入り組んでいて、とても数えきれないほどだったので、回り回って元のところへもどってきてしまうことも珍しくはなかった。
この巨大な家のあらましがどんなものかとたずねられても、それは限りのない時間のようなもので、全くとりとめのないものであった。
私がそこにいた5年の間、私のほか18人から20人ぐらいの少年たちが寝ていた小さな部屋の位置を適確に説明することは一度だってできたためしがないのである。
この建物の一番大きな部屋が教室に当てられていたが、私にとっては世界一大きな部屋としか思えないほどの大きな部屋だった。
細長くて天井が低く、とがった窓が開いていて、天井はどっしりとした材木で張りめぐらされていた。
部屋の片すみに校長のブランズビー先生の仕事部屋があった。
この仕事部屋には分厚いドアが取り付けられていて、先生がそこにいない時は死んでも開けたくないと思うような恐ろしいドアだった。
この学校の厚い塀の中で、私は10歳から15歳までの歳月を過ごしたのである。
子どもの心というものは、外の世界を必要としないのである。
私はこの静かな学校で経験したほどの楽しみを、その後の生活において経験していない。青年時代に裕福な生活から得た楽しみも、あるいは、大人になってからの悪業から得た楽しみもこれには及ばないのである。
それにしても、私は普通の男の子とは違ったところがあったにちがいない。
幼いころのことは、大抵の人はおおかた忘れてしまうものである。
私の幼いころの記憶は、まるで金貨に刻まれた彫りのように、明確に残っているのだ。
実を言うと私は熱しやすい性質で人の先頭に立って人に指図しないと気がすまないという性格だったので、まもなくほかの少年たちとはかけ離れた存在となった。
私は徐々にすべての人間を自分よりよほど年上でない限り自分の支配下に置くようになっていった。しかし、1人だけは例外であった。
この例外というのは、私の一族とは関係はなかったが、私と同じ名前のウィリアム・ウィルソンという名の少年だったのである。
この少年だけは私の言うことを盲目的に信じはしないとあえて言ったし、私の言いつけどおりにはしようとしなかった。
ほかの連中には私はいっこうに気にかけてはいないと思わせるように努めた。
彼と対等を装うために、私は四苦八苦しなければならなかったが、彼のほうは労せずして私と対等に振る舞うのであった。
しかし、このことから察して彼のほうがうわてであるということは、私以外だれも気づいていなかった。
実際、我々2人の間の葛藤については、周りの者はだれひとりとして気づいていなかったのである。
彼が私のしたいことを妨害しようとするのは、いつもほかの者が見たり聞いたりしていないところだったからだ。
彼は、私のようにほかの少年たちの先頭に立ちたがったりはしなかった。
彼はただ私を妨害したいと思っているにすぎないようだった。
彼のやり方には、どこか私に対する愛情のようなものが感じられるために、私はときどきこれを不思議に思うこともあったし、いつもそのことを愉快には思っていなかったのである。
私はこのことをありがたくは思っていなかった。それは、彼が自分は実にりっぱな人間で、私などよりも優れていると思っている何よりの証拠だと考えたからである。
おそらく、私たちが同じ名前を持っていることや、同じ日に入学したことのほかに彼が私に示したこのような愛情があったからこそ周りの者は私たちが兄弟だなどと言いだしたのだろう。
ウィルソンは私の家族とは何の関係もなく、もちろん遠縁でもなかった。
しかし、もし仮に我々が兄弟だったとしたら、2人はずいぶん近い関係にあったにちがいない。というのは、私は、2人とも1809年の1月19日に生まれていることを知るに至ったのだ。
これは、まことに奇妙な驚くべきことのように思えたのである。
お送りしたのは、エドガー・アラン・ポオの『ウィリアム・ウィルソンの物語』の第1部でした。
この物語は「やさしい英語」で書いたものを、リチャード・バウアーが朗読したものです。
では、次回は、『ウィリアム・ウィルソンの物語』第2部をお送りします。どうかお聞き逃しなく。
Reproduced by the courtesy of the Voice of America