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The Cask of Amontillado(2) アモンティラードーの樽
The Cask of Amontillado アモンティラードーの樽
EDGAR ALLAN POE: STORYTELLER. エドガー・アラン・ポー物語シリーズ
これを飲むとからだが温まるよ。さあ、飲んでみたまえ」
我々の回りに眠っている、死者のめい福を祈って一杯いただくことにしよう」
「じゃあ、フォーチュナートーくん、ぼくはきみの長寿を祈って一杯やるよ」
「もっと奥のほうにあるんだ。さあ、行こうじゃないか」
やがて、河床の下の辺りまで来ると、上のほうから水滴がぽたりぽたりと私たちの上に落ちてきた。
さらに多くの骸骨を見やりながら、私たちはさらに地下深く降りていった。
「きみのところは地下室がたくさんあって、しかも大きいんだね。
「ぼくたちは大家族だし、何と言っても古い家柄だからね。
でも、きみは寒さで震えているようだね。さあ、手遅れにならないうちに引き返そう」
でも、まずこのメドックをもう一杯いただいてからにしよう」
今度のワインは、ド・グラーブという上質のワインだった。
フォーチュナートーはこれを手に取ると、息もつかさずに一気に飲み干した。
彼は笑い声を上げながら、からのボトルを肩越しに投げ捨てた。
とうとう、空気があまりにも古くよどんでいるために、私たちのたいまつが今にも消えてしまいそうになる地下室までやってきた。
三方の壁には、骸骨が私たちの背よりも高く積み上げてあった。
もう一つの壁からは、だれかが骨を全部取りおろしておいたので、私たちの回りの地面には、辺り一面に骨が散らばっていた。
この壁のまん中には、もう一つの地下室へ通じる口が開いていたが、これは地下室というほどのものではなく、幅3フィート、高さ6~7フィートで、奥行きはたぶん4フィートぐらいのものだった。
それはむしろ壁に開けた穴といった程度のものであった。
「中へ入りたまえ。アモンティラードーはその中にあるんだ」
フォーチュナートーはおずおずとしながらも、さらに先へと進んだ。
当然のことながら、彼はすぐさま奥の壁に行き当たった。
虚をつかれた彼は、驚いて一瞬その場に、壁に向かって立ち止まった。
一方の輪には短い鎖がぶらさがっていて、もう一方には錠がついていた。
フォーチュナートーが気づく前に、私は錠をかけて彼をしっかりと壁につなぎ止めた。
もう一度うかがいたいんだがね。引き返してはどうかね。
なに、いやだって言うのかい。じゃあ、ぼくはきみを置いていくよりしかたがないね。
でも、その前に、きみのためにぼくにできることがあれば、何でもしてあげるよ」
「いや、ところでアモンティラードーはどうなっているのかね」
骨を片方に投げ捨てると、前もって壁から取りはずしておいた石が見つかった。
私は素早く壁を元どおりに積み上げ始めた。こうして、フォーチュナートーが震えながら立っている穴をふさいでしまったのである。
彼が鎖を引っ張って、激しく振っているのが聞こえた。
しかし、あと数個の石を積めば、全部の石が元の位置にもどるところまでいっていたのである。
「モントレゾールくん、はっはあ、こりゃなかなか愉快な冗談だね。
何度も、このことで笑おうじゃないか。はっはっはあ。2人で楽しくワインを飲みながら、はっはっはっはあ」
「そうだとも、2人でアモンティラードーをやりながらね」
こう言いながら、私は最後の石を地面から持ち上げた。
恐怖のうめき声のような低い音が、かすかに聞こえただけだった。
私は気持ちが悪くなった。きっと冷気のせいだったのだろう。
そして、古い骸骨を元のように積み上げて壁をふさいだ。
以来半世紀になるが、まだだれひとりとしてこの骸骨に手を触れた者はいないのである。
お送りしたのは、エドガー・アラン・ポオの小説『アモンティラードーの樽』でした。
この物語は「やさしい英語」で書いたものをリチャード・バウアーが朗読したものです。
フォーチュナートーのせりふを読んだのは、ロバート・プロスキーです。
Reproduced by the courtesy of the Voice of America