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LITTLE WOMEN 若草物語 13-1

Chapter Thirteen Castles In The Air 美しい空中楼閣 1

Alcott, Louisa May オルコット ルイーザ・メイ
AOZORA BUNKO 青空文庫
 九月のあるあたたかい日の午後、ローリイは、マーチ家の連中が、なにをしているだろうと考えながらも、わざわざ見に出かけていくのもおっくうなので、ただハンモックにゆられていました。
 かれは、ふきげんでした。その日は、することがうまくいかず、
あたたかいので身体はだるく、勉強をすっぽかしてブルック先生をいやがらせ、お昼からピアノをひきつづけて、おじいさんの気持をそこね、家の犬が一匹、気がくるったといって女中をおどかし、馬にひどくしたといって馬丁とけんかし、世のなかはおもしろくないやと、ぷんぷん怒って、ハンモックにとびこんだのです。
 けれど、美しくのどかなので、かれの気持はやすまり、世界一周の航海をしているような空想にふけっていると、人声がして空想はやぶれました。
見るとマーチ家の姉妹たちが出かけていくところでした。
めいめい大きなつばの帽子をかぶり、肩に茶色のふくろをかけて長いつえをつき、
メグはクッション、ジョウは本、ベスはひしゃく、エミイは紙ばさみを、それぞれ持っていました。
一行は、しずかに庭をぬけ、うら木戸を出て、家と川のあいだにある丘をのぼりはじめました。
「ひどいなあ。ぼくを誘わないでピクニックにいくなんて。かぎをもっていないから、ボートにのれまい。
よし、持っていってやろう。そして、なにをするのか見て来よう。」
 ローリイは、どの帽子をかぶろうかとまよい、かぎをさんざんさがし、かぎがポケットにはいっているのに気がつくと、さっそく後を追いましたが、少女たちのすがたはなく、
ボート小屋へいきましたが、だれも来ないので、上へのぼっていきました。
すると、松の木立のかげから、風の音よりも、こおろぎの歌よりも、もっとほがらかな声が聞えて来ました。
「すてきだ!」と、ローリイは、目がさめたような思いでした。
メグはぬいものをしていましたが、ピンクのドレスがばらのようにあざやかでした。
エミイは、一むらのしだを写生していました。そして、ジョウは、大きな声で本を読みながら、あみものをしていました。
この光景が、ローリイの心をとらえました。ローリイは、そばへいきたいが、誘われたのでもなし、家へ帰るべきだが、家はたまらなくさびしく、それで立ち去りかねていると、
リスがかれのすがたにおどろいて、するどい声を出しました。その声に、ベスが顔をあげると、ローリイのさびしそうな顔があったので、安心させるように、にっこり笑って手まねきしました。
 メグは、眉をつりあげて、いけないといようすをしましたが、ジョウはメグに顔をしかめて、「だいじょうぶよ、いらっしゃい。
お誘いしようと思ったけど、こんな女の遊びなんか、つまらないと思ったのよ。」
「あなたたちの遊びなら好きです。でもメグがいやなら、ぼく帰ります。」
「いやじゃありませんわ。そのかわり、ここでは怠けてはいけないという規則だから、あなたもなにかしなければいけませんよ。」
「どうもありがとう。なんでもします。だって家は、さばくみたいに退屈です。」
 ローリイは、うれしそうでした。
「それでは、あたしが、かかとをあんでいるあいだに、この本を読んでしまってね。」 ジョウが本をわたすと、
ローリイは、はいと、うやうやしく答えて「はたらきばち会」に入会させてくれた好意に感謝して、熱心に読みはじめました。
その物語はあまり長くはなく、ローリイは読みおわると、労にむくいてもらうために、二三の質問を出しました。
「ちょっとうかがいますが、この有益な会は、新らしくできたんですか?」
 姉妹たちは顔を見合せました。秘密にしておくべきか、それともうち明けるべきか? 
ローリイにならいってもいいと、みんなは考えました。ジョウは、にっこり笑っていいました。
そして、この休暇には、怠けないようにと思って、めいめい仕事をこしらえて精いっぱいやりました。
休暇はもうじきおわりますが、仕事はみんなできて、よろこんでいますの。
 
Copyright (C) Louisa May Alcott, Masaru Mizutani
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