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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Blue Carbuncle 青い紅玉 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「ほう! ブリクストン通りへ行かずにすむかもしれぬ。」とホームズがささやく。
「ついて来たまえ。あの男がいったい何やつか確かめよう。」
明かりのついた露店街を思い思いに歩く人混みを縫って、我が友人はすっとその小柄な男に追いつき、肩に触れた。
男がはっと振り返る。ガス灯に照らされた男の顔から、すべての色が跡形もなく消えていくのが見えた。
「えっ、誰、ですか? なんでしょう?」男は声を震わせる。
「失敬。」ホームズの穏やかな声。「その、耳に挟んだものですから。さきほどあの売り子に何か訊いておいでで。
ならば、お役に立てるかと思いまして。」
「あなたが? 何者です? どうしてそのことを知ってるんですか?」
「僕の名前はシャーロック・ホームズ。
他人の知らぬことを知るのが仕事です。」
「いったい何を知っているというんです?」
「恐縮ですが、何もかも。
あなたは数羽の鵞鳥を必死で探している。ブリクストン通りのオウクショット夫人から出荷され、ブレッキンリッジという名の売り子に渡り、そこからアルファのウィンディゲイト氏へ、さらにそこからヘンリ・ベイカー氏も一員である同好会へと渡った鵞鳥を、ね。」
「ああ、あなたのような人に会いたかったんです。」と小柄な男は声を上げて、両手を前へ突き出し、指をふるわせる。
「言いようもありません。私は、それが気になって気になって仕方ないのです。」
 シャーロック・ホームズは、通りすがりの四輪馬車を呼び止めた。
「それならば、くつろいだ部屋でお話ししましょう。こんな吹きさらしの市場では何ですから。
その前におうかがいしたいのですが、せっかくお力添えするのですから、お名前を。」
 男は一瞬ためらった。
「名前は、ジョン・ロビンソンといいます。」と答えながら、目をわきへそらす。
「いえいえ、本当のお名前を。」とホームズはにこやかに言う。
「偽名での取引は、どうにも厄介ですから。」
 男の白い頬がさっと真っ赤になる。
「そうですね。」と男は言う。「本当は、ジェイムズ・ライダーといいます。」
「左様。ホテル・コズモポリタンの客室係長。
馬車へお上がりください。すぐお話しして差し上げましょう。あなたの知りたいことすべてを。」
 その小柄な男は、我々の一方から一方へ、おびえ半分、期待半分の目を向ける。めぐってきたのは幸運なのか破滅なのか、はかりかねている人というふうに見えた。
そして男は馬車に乗り込み、三十分後、我々はベイカー街の居間へと戻っていた。
馬車に揺られている間は誰も一言もなく、ただこの新しい連れのぜえはあという呼吸と、もぞもぞする手の動きが男の緊張を伝えるだけだった。
「到着!」とホームズが声を張り上げて、我々はぞろぞろと部屋へ入った。
「外がこうでは、暖炉がいちばんです。
冷えますか、ライダーさん。どうぞ柳の肘掛椅子へ。
今スリッパを履きますから、そのあと、あなたのささやかな問題を解決しましょう。
うむ、よし! あなたは、あの数羽の鵞鳥がどうなったのかお知りになりたい?」
「そうです。」
「というよりは、そう、たった一羽だけ、でしょう? 気になるのは。……体は白く、尾に一本黒の横線がある。」
 ライダーはわなわなと震え、「そうです。」と声を絞る。「あれがどこへ行ったのか教えてください。」
「ここへ来ました。」
「ここへ?」
「ええ、たいへん申し分のない鳥でした。
道理で、あなたが感心をお持ちになるはずです。
何せ卵を産んだんです。死んだ後に。……あれほど麗しく、神々しい蒼い卵は見たことがありません。
この我が美術館の中にあります。」
 我らの訪問客は、足がふらつき、右手でマントルピースをつかむ。
ホームズは自分の金庫の錠を開けて、蒼炎石を高く掲げた。星のように光を放ち、その輝きは冷たく、燦爛として四方八方へ刺さるようだ。
ライダーは引きつった顔をして、石をにらみつけたまま立ちつくす。言おうか言うまいか、決めかねるというように。
「それまでだ、ライダー。」ホームズの静かな声。
「足下をしっかり、でないと暖炉に落ちるぞ! 腕を取って椅子へ、ワトソン。
どうも血の気の足りない男だ、とても重罪などやり抜けられまい。少々ブランデイを与えたまえ。
うむ! 人間らしくなってきた。小海老だな、まったく。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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