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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険
The Adventure Of The Blue Carbuncle 青い紅玉 8
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
しばらくふらふらとし、倒れんばかりであったが、ブランデイが効いて頬に色味が戻ってきた。男は座りながら、おびえた目でその告発人をじっと見つめる。
「事件の筋はおおよそ把握できている。おそらく必要なだけの証拠もすべて揃っている。だから何も話さずとも結構。
ただ、若干のことをはっきりさせて、全容を明らかにした方がいいだろう。
知っているな、ライダー、この青い宝石はモーカー伯爵夫人のものだ。」
「キャサリン・キューサック――彼女が教えてくれました。」と男はうわずった声で言う。
さて突然、財産がやすやすと手に入るという誘惑がもたげたとき、君は我慢ができなかった。君以上の善人でさえ無理な話だ。だが、実際のやり口は周到ではなかったな。
見たところ、ライダー、君の中には立派な悪党がいて、そいつがやったらしい。
君は知っていた。ホーナという配管工の男が以前盗みをやっていたことを。そして疑いがすぐさま彼の方に強く向けられるということを。
そこで何をしたか? 令夫人の部屋にちょっとした細工をした君は――いや君と共謀者のキューサックは――彼をその部屋へ行くように仕向けた。
そのあと、彼が立ち去ると、君は宝石箱を物色し、通報、この不幸な男を逮捕させた。そして――」
いきなりライダーは敷物にひざまずき、我が友人の膝をつかむ。
「今更恐れをなして、はいつくばるのもたいへん結構、だが少しでも考えたことがあるか、覚えのない罪のために、哀れホーナは被告席に立つのだと。」
なぜ宝石が鵞鳥の中に入ったのか、そしてなぜ鵞鳥が表の市場に出たのか?
嘘誤りなく話すんだ。そこだけに助かる唯一の望みがある。」
ホーナが逮捕されたとき、思いました。この宝石を持ってすぐに逃げた方が得策だ。いつ警察が私の身体を探ったり、家捜しをするか分かったもんじゃない。
用ができたと見せかけて、外へ出て、姉のうちへと向かいました。
姉はオウクショットという男と結婚して、ブリクストン通りに住んでいました。そこで市場へ出すための鳥を飼育しているんです。
道中、会う人会う人みんな、お巡りやデカに見えました。とにかく寒い夜でしたが、顔なんかもう汗だらけになって、ようやくブリクストン通りにつきました。
姉はどうしたの、どうして顔色が悪いの、と訊ねてきましたが、私はホテルで宝石泥棒があったからあわててるんだ、と答えました。
それから私は裏庭に回って、パイプを吹かしました。何をすればいちばんいいのやら、わかりません。
かつてモーズリィと呼んでいた友人がおります。その男は悪の道へ走り、先日までペントンヴィルで服役していました。
いつか会ったときに、盗みの技やら、盗んだものをどう捌くか話をしたことがあります。
私には嘘をつかない男だとわかっていました、やつのことはちっとばかり知っていますからね。ですから、私は彼の住むキルバーンに行って、あらいざらい話すことにしました。
あいつなら宝石を金に換える方法を教えてくれるでしょう。
ホテルから出るだけでどれだけしんどかったか、思い出したんです。
いつ何時つかまって調べられるかも知れず、なお宝石は胴着のかくしの中にあるのです。
そのとき、私は壁にもたれていたのですが、足下をよたよたと歩き回る鵞鳥にふと目がとまりました。そこでぱっとひらめいたんです。これなら史上最強の刑事だってやりこめる、と。
姉が何週間か前に言ってたんです。クリスマス・プレゼントにここの鵞鳥を一羽選んでもいいわよ、と。姉は約束を絶対に守る人でした。
ここで自分の鵞鳥を選べば、その中に入れて宝石をキルバーンまで運べる。
庭に小さな納屋があって、その裏へ一羽を追い立てました。ぶくぶくした白いやつで、尾に縞のあるやつです。
そいつを捕まえて、くちばしを押し開け、宝石を指の伸びる限りできるだけ喉の奥へ押し込みました。
鳥はごくりと飲み込んだので、宝石は食堂を通って餌袋まで入ったようでした。
ところがそいつがばたばたと暴れ出して、姉が何事かと外へ出てきました。
私が姉と話をしようと振り返ると、その鳥めは逃げ出して、他のやつの中へ飛び込んでいきました。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo