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His Last Bow シャーロック・ホームズ最後の挨拶

The Adventure of the Devil's Foot 悪魔の足 9

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「自己防衛?」
「ええ、ドクター」
「自己防衛を、何に対して?」
「モーティマー・トリジェニス殺害の告発に対して」
スタンデールは額をハンカチで拭いた。
「確かに、うまいもんだ。
あんたの成功は、すべてこの並外れたハッタリの力によるものなのか?」
「ハッタリは」と、ホームズは厳しく言い放った。「あなたがかけているのです、ドクター・レオン・スタンデール、私ではありません。
証拠として、私の結論の基礎となっている事実をいくつかお話しましょう。
大量の所持品をアフリカに送る手続きをとりながら、プリマスから引き返したことについては、何も言うつもりはありません。ただそのとき初めて、あなたがこの殺人劇の構成に参加するひとつの要素であると知りました」
「俺が戻ってきたのは――」
「あなたの説明はお聞きしましたが、私は納得不可能な不充分なものであると感じました。
まあ、我々としては合格にしておきましょう。
あなたはここに足を運び、私が誰を疑っているのか尋ねました。
私は回答を拒絶しました。
それからあなたは牧師館に行き、外でしばらく待ち、やがてご自分のコテージに戻られました」
「どうやって知った?」
「後をつけていたんですよ」
「見たところ無人だった」
「私に後をつけられている場合には、無人さんだけしか見えないものでしょうね。
コテージで眠れぬ夜を過ごしたあなたは、とある計画を練ったのです。そして、その朝早く、あなたはその計画を実行に移しました。
ちょうど日が昇るころ部屋を出て、ポケットに赤みを帯びた砂利をいくらか詰めこみました。砂利は門のそばに山と積んでありました」
スタンデールは荒々しく身じろぎして、ホームズを驚きの眼差しで見つめた。
「それから、足早に牧師館への道を歩いていきました。
そう、あなたはそれと同じ畝模様のあるテニスシューズをはいていましたね。
牧師館につくと、果樹園と脇の生垣を通りぬけて、下宿人トリジェニスの窓の下に行きました。
すでに日光が射していましたが、家のものはまだ活動していませんでしたね。
あなたはポケットから砂利を取り出して、上の窓に投げつけました」
スタンデールは椅子から飛びあがった。
「信じられない、あんたは悪魔そのものだ!」
ホームズはこの賛辞に微笑で応えた。
「2握り、ことによるともうひと握りを投げつけたところで、下宿人が窓際にやってきました。
あなたは彼に降りてくるように合図しました。
彼は急いで服を身につけると、居間に降りました。
あなたは窓から入りました。
そこで会見をしている間――短時間に終わりましたが――あなたは部屋の中をいったりきたりしていました。
それから、あなたは部屋から出て窓を閉め、外の芝生の上で葉巻をふかしながら立ちつくし、中の出来事を観察しました。
最後に、トリジェニス死亡後、きたときと同じように引き上げていったのです。
さあ、ドクター・スタンデール、この行為をどう正当化しますか? それに、いったい動機は何だったんですか? 
私を軽く見たりごまかしたりしたときは、この問題が私の手のうちから完全に放棄されることを保証しますよ」
ホームズから告発の言葉を聞くと、スタンデールの表情は色を失った。
顔を手の中にうずめて、しばらく考え込んでいた。
不意に、彼は胸ポケットから1枚の写真を取り出して、粗末なテーブルの上に投げ出した。
「理由はこれだ」と、スタンデール。
とても美しい女性のバストアップの写真だった。
ホームズはその上に屈みこんだ。
「ブレンダ・トリジェニスですね」とホームズが言った。
「そう、ブレンダ・トリジェニス」と、客人が答えた。
「俺は何年もブレンダを愛してきた。
ブレンダもまた何年も俺を愛してきた。
それが、他人を不思議がらせたコーンワルでの隠遁生活の秘密だよ。
ここは、俺にとってこの世で唯一の愛しいものに近づける場所だったんだ。
結婚はできなかった。俺には何年も前に出ていった妻があって、イギリスのふざけた法律では、いまだ離婚が許されない。
ブレンダは何年も待った。俺もまた何年も待ったよ。
自分たちを何が待ち受けているかも知らずに」
スタンデールは猛烈な啜り泣きに巨体を震わせて、斑に染まった髭に隠れた喉を掴んだ。
その後何とか自分を抑えると、話しつづけた。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha
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